爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「読んじゃいなよ! 高橋源一郎ゼミ岩波新書を読む」高橋源一郎著

作家の高橋源一郎さんは、明治学院大学で教授をされていたのですが、その時期にゼミで「岩波新書を読む」という内容の講義をされたそうです。

始めはゼミ生に読書をさせてその感想文を書くという内容だったのですが、それだけじゃつまらないということで、その著者を呼んで話を聞こうという、特別講義もやってしまいました。

この本では、その3人の特別講義を中心にして、学生たちとの質疑応答などもまとめてしまいました。

ただし、その顔ぶれというのが、哲学者で大阪大学名誉教授の鷲田清一さん、憲法学者早稲田大学教授の長谷部恭男さん、詩人の伊藤比呂美さんという、錚々たる面々です。

 

高橋さんのゼミは明治学院大学国際学部ということで、哲学、憲法、詩といった分野が専門といった学生ではないので、あくまでもその分野では素人たちが読んで、その感想を著者に対して述べるという、面白い企画となっています。

なお、ゼミとは言っても正規の学生だけでなく、元学生や自由参加者たちも含むということで、自由な雰囲気で行われていたということです。

 

鷲田さんの本は、2014年発行の「哲学の使い方」

ほとんどの学生にとっては哲学なんていうものは考えたこともないのでしょうが、そこからよく食いついてくるという、皆にとって得難い体験であったと言えるようなものになっています。

哲学を考えていくと、どうしても日本の大学制度の中での自分の生き方ということも学生にとっては問題となるようで、それを質問した学生に対し鷲田さんは自分の体験としてドイツでの生活を話します。

ドイツでの大学というものは日本とは大きな違いがあり、大学というものがあまりメリットがないのでかえって研究に向いているというのも面白い?点でした。

日本では先輩・後輩という観念が非常に強いというのも面倒なところで、友人は同年齢しかできないというのも問題点ということです。

 

長谷部さんは2006年の「憲法とは何か」

憲法学者としては少々変わり種の長谷部さんで、他の学者は個々の法律が憲法に沿っているか否かといった問題のみを考えるのに対し、憲法というものの根源に戻って戦争や歴史といったところから考えているそうです。

 

太平洋戦争で大日本帝国が敗けたのを「国が敗けた」と言いますが、実はそうではなく大日本帝国という「社会契約」が敗けた、そしてその社会契約は廃止するので後はどうでも好きにしてくれ、というのが戦争で敗けたということです。

したがって、その結果として連合国がこの憲法でやれといって示されたのが現日本国憲法であるというのは当然といえば当然です。

かつては、相手国の領土が欲しいとか、賠償金を取りたいとか言って戦争をするということもありましたが、今ではそういった戦争はほぼ不可能になっています。

国民国家では、その一部を割譲などということは不可能です。

帝国同士の戦争であればそれも可能だったのですが、もはや意味がないとか。

 

憲法9条をめぐる問題も、その基本に帰って考えればまた違ったところが見えてくるようです。

この辺のところはやはり原典を読まなければよく分かりませんので、ここでは止めておきます。

 

なお、特定秘密保護法などの安倍政権の憲法と抵触しそうな法律について、長谷部さんは法律運用も日本の役人というのは馬鹿真面目にあたるから実際には大丈夫だろうという感触を持っていたそうです。

現在でもその感想に変わりがないのかどうか、聞いてみたいものです。

 

 

伊藤比呂美さんは、2014年出版の「女の一生」です。

若い頃に新進気鋭の詩人として登場し華々しく活躍されたそうですが、その後は何度かの結婚とか海外生活とか、いろいろとあって今では人生相談もやっているとか。

最初に文学を目指した時に、たまたま詩を教えてくれるクラスに入ったのが機縁で、そこの先生に褒められたので調子にのって色々と書いていったそうです。

あとで聞いたらその先生は「褒め殺し」で有名な人だったとか。

内容も難しいのは苦手なので、セックスやら女性の身体やら、自分の興味の赴くままに書いていったらそれが当たって評判になってしまったそうです。

その後は結婚したり、離婚したり、アメリカに渡ってユダヤ人と結婚したり、などなど。

アメリカの知識人の、「強引な考え方や、テニスの試合みたいな対話のしかたには日々むかついていた」そうです。

しかし日本に帰ってきたら、

「日本人のあのなんとなく輪になって、ぽーんとボールをよそに放って、”あー”とみんなで見て、少したったら一人の人がそれを拾ってきてまたぽーんと投げてみんなで”あー”と見ているような会話のしかたにもイライラする」という、文化の比較はさすがに面白い表現でした。

 

学生さんの質問も、中には少々稚拙かと思えるものもありますが、鋭いものもあり、若い人も結構やるもんだと思わせられます。

 

読んじゃいなよ!――明治学院大学国際学部高橋源一郎ゼミで岩波新書をよむ

読んじゃいなよ!――明治学院大学国際学部高橋源一郎ゼミで岩波新書をよむ

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2016/11/30
  • メディア: 新書