爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「アジアインフラ投資銀行AIIBは崖っぷち中国の延命トリックだ」松山徳之著

アジアインフラ投資銀行(AIIB)とは、中国が提唱する形で賛同国を募りアジア地区のインフラ建設に資金を供給しようとするものです。

 

2013年に中国が構想を発表し、その後ヨーロッパ各国も出資するということで、2015年末に発足しました。

 

この本は、中国在住の経済ジャーナリスト、松山さんがこのAIIBの危険性を緊急に知らせて中国のトリックに引っかからないようにとの意味で2015年に出版されたものです。

松山さんは証券会社勤務から週刊エコノミスト記者となり、その後は退職して中国に渡り取材を続けているという経済ジャーナリストということです。

中国というものは、あまりにも大きすぎてその実像を捉えることも難しく、特に日本からの進出企業やメディアなどは付き合う中国人も上層のごく一部であり、本当のことがなかなか伝わらないということです。

松山さん自身は、上海の庶民の住むようなボロ住宅に住み、周りの貧乏な中国人と交わることで、中国の真の姿、つまり金儲けばかりで信義など何もないということを身にしみて知ったということです。

 

そのような、下層から見ると中国は上っ面の姿とは全く違い、もはやかつての清王朝末期のような断末魔の状態に近いとしか言えないものだということです。

このAIIBもそのような崖っぷちの中国が、トリックを使って延命策を図っているだけのように見えてきます。

 

そもそも、中国はこれまでにADB(アジア開発銀行)から多額の融資を受けて国内整備をやってきており、その融資をまだ完済はしていません。

にもかかわらず、他のアジア諸国に融資をするAIIBを立ち上げてそこに出資をしようというのは、中国のトリック外交術の賜物とも言えるものです。

 

中国の手法では、中国自体が「他国への脅威となり」、「アメリカをも凌ぐ大国」となったという姿を見せるということが他の面でも有効であるということです。

それが功を奏したか、最初は冷ややかに見ていた世界各国の中から、イギリスを始めヨーロッパ各国、そして韓国がAIIB参加を表明しました。

 

そもそも、国際的に融資を行う国際銀行というものには、世界銀行IMF、そしてアジア開発銀行(ADB)などがあります。

それとAIIBの違いがどこにあるのか。

これまでの国際銀行は、インフラ投資だけでなく様々な分野へも投資をしますが、いずれも「貧困の撲滅」と「繁栄の共有」を謳っており、国家の近代化につながる分野へ融資するものとしています。

そのため、独裁政権や環境破壊につながる事業には融資をしないこととしています。

AIIBは融資先をインフラ整備に限っている点が異なります。

さらに、AIIBはその透明性に疑問が持たれています。

その適正さがチェックできる体制かどうか、不透明と見られています。

 

AIIBの出資比率も、中国が30%、その他の国は低く押さえ中国主導が揺るがないようになっています。

ただし、中国が本当に「大金持ち」なのかどうか。

そこも大きな疑問となります。

外貨準備高は中国が世界一となったと言われています。

しかし、2014年から2015年にかけて急速に減少しています。

また、対外債務も問題となります。

対外純資産がもっとも多いのは今でも日本ですが、中国はそれに続く規模の資産を持っていると言われています。

しかし、実際は巨額の対外隠し債務があると言われています。

中国政府は債務がないように見せていますが、国有企業や地方政府、そして政府高官が個人で持つ債務が巨額に上り、それを差し引くともうする純債務国に転落するというのが本当の姿だということです。

 

中国の共産党内での勢力争いは熾烈なものであり、敗れたものが逮捕され処罰されるといった事件が時折報道されますが、その実態は報道以上のものがあります。

中央政府から地方政府まで、上納金と賄賂で結びついた勢力が総力をあげて争っています。

そのために、地方政府は裏金をできるだけたくさん集めるのに躍起となり何か儲け口が無いかと探しているばかりとか。

すべての政治活動に賄賂が飛び交い、それで裁判も決まるというのが実情です。

尖閣諸島をめぐり日中の緊張が高まったときに、ある官僚が言ったそうです。

「日中が戦争になれば、駆逐艦、潜水艦、航空機など多くの兵器が予算と合わずに不足していることがバレて大問題になるので、人民解放軍は戦争はできない」とか。

 

AIIB設立といった、形は作っても実はその運用は不可能という見方もあります。

中国には元々は中国人民銀行が唯一の銀行であったのですが、改革開放政策が始まりそれでは足りないとなっていくつもの銀行を発足させました。

しかし、こういった銀行は貸し出し先としてはリスクのない国有企業だけを相手にしており、民間企業にリスク判断をして貸し出すということはできないままのようです。

こういった民間企業の融資はかつての古い時代のままの、金貸し、典当(日本の質屋のようなもの)、闇金融といったところしか無いそうです。

 

中国の人民の不満は大きくなる一方で、国内でも暴動が頻発しています。

今は少数民族貧困層ばかりですが、中国政府が恐れるのは富裕層になりそこねた人々が暴動に参加することだとか。

それが考えられないとは言えない状況になりかねないそうです。

 

AIIBは崖っぷち中国の延命トリックだ

AIIBは崖っぷち中国の延命トリックだ

 

その後のAIIBの状況は、結局アメリカと日本は不参加のまま動き出しているようです。

しかし、融資実績は計画を大きく下回る程度に留まっており、対象国が不信感を持っているために話に乗ってこないということでしょうか。