年を取ってくると足腰が弱り歩くのも大変になるのは仕方のないことですが、そうなってくるとちょっとしたきっかけで転ぶということも増えてきます。
老人の転倒というのは、大きな怪我につながることもあり、またそれが原因となって寝たきりにもなることが多いのはよく知られていることです。
著者はスポーツ医学を専門としていたのですが、転倒予防医学という方面にも詳しく、多くの著書を書かれている他、「転倒予防教室」を開いて高齢者に認識を深めさせる活動もされているそうです。
二本足で歩くのが普通である人間の歩行は、その80%が片足立ちで、20%が両脚支持だそうです。
つまり、歩くということは「片足立ちの連続技」という高度なことをしているということです。
老化に伴って脚力が衰えればスムーズな歩行も難しくなり、転倒に至るということになります。
著者が高齢者に自分の転倒危険性を認識させるために行っているのが、「健脚度」を測ってどの程度自分の脚力が落ちているのかをはっきりさせるというものです。
これは3種の測定により判定するもので、
①10メートル全力歩行 (横断歩道や踏切を渡る場面を想定)
②最大一歩幅 (家屋の敷居や水たまり、障害物をまたぐ場面)
③40センチ踏み台昇降(登って降りる) (大型バスのステップを昇降する場面)
これを測定することで個々の高齢者の足の老化の程度を把握し、転倒の危険性を予測することができます。
転倒と言う言葉が何を指すかということも若干ずれがあるようです。
消防庁の定義によれば「同一面上でバランスを失い倒れて受傷したもの」としています。
同じような現象として「転落」「墜落」もあり、通常の語感とは少しずれますが、きちんと使い分けが必要です。
転倒のリスクとして重要なのは、
筋力の低下
バランス障害
歩行能力の低下、歩行障害
移動能力制限
があり、一人ひとりに対してこれらのリスクを評価し、それに応じた医学的対応や運動プログラム、生活改善処置が必要となります。
「転ばぬ先の杖」という言葉がありますが、歩行の際に杖を使うと言うことは非常に有効になる場合が多いようです。
初老の人の場合など、「杖などまだ早い」と考えてなかなか使おうとしないことが多いようですが、早めに使い始めることで事故を未然に防げることになります。
適切な杖の選び方、メンテナンス、使い方など、いろいろ知っておくべきポイントがあるようです。
高齢者の転倒予防として、「ぬかづけ」というポイントがあります。
「ぬ」は「濡れていることろは滑って転びやすい」
「か」は「階段・段差はつまずいて転びやすい」
「づけ」は「片付けていないところでは滑ったりつまずいたりして転びやすい」
ということで、家庭の生活環境を見直し危険なところは処置する必要があります。
高齢者を対象として、簡単な運動などで転倒予防を図るというプログラムもありますが、それを始める前に病気が無いかどうかを調べてみる必要があるそうです。
特に糖尿病やパーキンソン病にかかっている場合は歩行しても転倒してしまうことが多くあるということです。
また、様々な病気の治療として薬を飲むことが多いのですが、その副作用として転びやすくなる場合も多いので、その点にも注意が必要です。
高齢者は転倒した場合に骨折をしたりする例も多いので、「転んだらおしまい」と考え過ぎる傾向もあるようです。
それが行き過ぎて、転倒した場合に過剰に落ち込んで身体が弱るという人もいるとか。
転倒を予防するのも大切ですが、「転んでもまた起き上がれば良い」という風に考えることも必要なことだそうです。