「国民作家」司馬遼太郎については、それに反する評論などばかり読んでいますので、(多分私の読書傾向が反司馬派に偏っているんでしょう)司馬作品はあまり読まないのですが、これもたまたま手にとったものです。
実は、ちょうど今から20年ほど前に、中国の南部から台湾を巡る旅に参加したことがあり、この本の扱っている蘇州や寧波なども訪れたことがあったため、どのように描かれているかと思いました。
もちろん、この地域を扱った中国の古典にも親しんでいたので、春秋戦国時代の呉越の争いの現場という意味でも興味はありました。
ある本の論評(まあ、斎藤美奈子さんの本ですが)によれば、司馬遼太郎の「街道をゆく」シリーズは
中上健次さんが書いた「紀州 木の国・根の国物語」という本は知りませんでしたが、独自の取材を重ねて書かれたルポだったそうです。
そこで比較し語られているのが、司馬遼太郎「街道をゆく」シリーズで、これを指して「行政当局が敷いてくれた取材ルートに乗り、その土地のサワリの部分を文人気質でサワってみるだけの旅」だと批判しています。
最近その一冊を読んだばかりだったので、納得。
ということでしたが、この本を読んだところでは、十分にその雰囲気は感じられました。
どうやら司馬さん一人だけの旅行ではなく、他にも日本人数名が同行しているようですが、中国側の担当者も多数登場、結構手をかけて応接してくれています。
NHKテレビの「ブラタモリ」ほどではありませんが、現地の周到な案内があれば面倒な取材は必要ないでしょう。ただし、関係者の思惑に逆らうようなものはできそうにありません。
まあ、悪口はこの辺にしておいて。
20年前の私達の旅行も、現地当局者の全面歓迎でしたので、ガイドも付いていました。
蘇州はその中でも興味深いものでしたが、本書に書かれているように、拙政園などの庭園は見どころはあるものの、文化的な意味はやや問題があったもののようです。
寧波は上海などとは異なり、まだ20年前には観光地化が進まず、中国の生の姿が感じられるものでした。
司馬さん一行とは違い、日本のかつての訪中団の足跡をたどるというわけには行きませんでしたが、いくつかの史跡は回ったような覚えがあります。
本書によれば他にも多数遺跡があったようです。惜しいことをした。
私の旅行の強烈な記憶では、地元の市場を案内された時に、犬の食用肉が原型に近い形で吊り下げられていたというのがありました。もう今は無いだろうな。
中国もこの本の取材された1970年代から80年代はもちろん、私の訪れた20世紀最後の時期と比べても大きく変わってしまったようです。
今の中国をちょっとだけ見てみたい気もしますが。