著者の小宮山さんは化学工学が専門ですが、東京大学の工学部長から副学長、そして本書出版時の2007年は東京大学総長の職にあったという方です。
それだけで反発を覚える人も居るかもしれません。
しかし、まあ我慢して読み進めました。
日本は様々な課題が山積みで、閉塞感がそこら中に漂っています。(2007年の話です)
資源エネルギー問題、環境問題、高齢化少子化、教育問題等々ですが、これらは世界の各国でも今は問題化していなくても必ず今後大きな問題となってくると考えられます。
つまり、現在は日本でもっとも重い課題となっているように見えても、いずれは世界中に広がるということです。
それならば、この時点でなんとかして日本がこれらの課題を解決していけば、いずれは世界の問題を解決することができるのではないかと言うのが本書主題です。
これまでの歴史でも、先進国というものは課題も最初に襲ってくるものでした。イギリスでもフランスでも世界に先駆けて課題がのしかかり、それをクリアすることで先進国となりました。
日本でもそれが可能であると言うことです。
ただし、そのために何をすべきかというと、本書ではあくまでも「技術開発頼り」です。
「日本車は省エネで低公害」という文章がその意識を如実に表しています。
来るべき、エネルギー供給減少の事態にも、日本の技術でエネルギー効率を現在の3倍に引き上げ、自然エネルギーを現在の2倍に引き上げれば解決可能としています。
科学技術主導の時代を引っ張ってきた技術者、科学者にありがちな技術開発万能の思考にどっぷりと浸かりきっているようです。
「できないかもしれない」という恐れはまったくないのでしょう。
「輸送コストは原理的にはゼロ」というトンデモ発言も見ものです。
位置エネルギーの増減がないために、重力に逆らわない移動にはエネルギーが掛からないという、一見科学の原理に則ったように見えるのですが、実は実施不可能な話を持ち出します。
これはもちろん、「摩擦がなければ」という条件が必要です。
石油を中東からタンカーで持ってくることを挙げていますが、船舶輸送が非常にエネルギー効率が良いことは確かですが、それをトラック輸送を同列に論じるわけには行きません。
バイオマス発電のために細々とトラック輸送をするなどというのは不可能でしょう。
科学技術の限界は越えられると言う信念のようなものがあるようで、「専門家はたこつぼに埋没してはならない、社会はたこつぼに埋没した専門家に相談してはならない。その問題に集中しつつも基礎に戻って考えて、技術の大きな動向や過去の歴史、今後起こることを見通すことができる、そういった専門家に相談する必要がある」と書いています。
御自分がそういった見通す事ができる専門家であるということに自信を持っているようです。
教育改革については、当時御自分が東大総長であった関係か、そちらの方面に偏った議論のみでした。
まあ、ちょっと読んだだけ時間のムダだったかもしれません。