福島第1原発事故により大きな放射能汚染をもたらした原発の廃止を訴える人々は増加していますが、一方現政権は原発なしでの社会運営はできないと主張し原発の再稼働を進めています。
そのような状況で、原発ゼロを目指すためにどうすればよいかということを一冊にまとめた本で、福島原発事故の状況、原子炉の解体と廃棄物処分の実際、原発ゼロのための再生可能エネルギー普及の施策というものを並べて書かれています。
安斎さんは立命館大学名誉教授であり、実は疑似科学糾弾の活動にも力を入れておられた方で、その方面の著書は読んだことがあったのですが、こちらの放射線防護学の方が専門ということでした。
安斎先生が福島事故の放射線汚染の状況の執筆、元日本原子力研究所研究員の舘野さんが原子炉廃炉の技術的な解説、竹濱さんが再生可能エネルギーの部分を担当ということです。
放射線汚染および廃炉の技術に関しては適切な解説がなされ、分かりやすく記述されていると感じました。
特に原発事故放射線の問題について「事態を侮らず、過度に怖れず」という記述は簡潔であり必要十分に問題を表しているかと思います。
また、廃炉についても解体技術とともに核廃棄物をどうするかという問題が最も大きくしかもまったく未解決という現状をどうにかしなければということが強調されています。
それに比べ再生可能エネルギーへの転換という問題は、ドイツなどで進展しているが日本は進まないということでドイツの状況を説明するばかり、あまり基本的な疑問点に答えられていないように感じます。
ドイツの電力供給の実態データが示されていますが、驚いたことにほとんどが風力によるものです。そのために心配される供給量変動も少ないことが分かります。
日本では多くが太陽光に偏ることが大きな問題点であり、実用化のネックともなっているのですが、では風力に頼ることができるのか、それは日本では難しいというのが実状でしょう。
そこをもう少し掘り下げてほしいものです。風力も太陽光も一絡げでは実態が分かりません。
さらに、日本では地熱というのもありきたりです。別府の温泉発電を持ち上げていますが、このようなことができるのは極めて限られた地域でしかありません。
あのような沸騰水以上の過熱温泉が噴き出している場所はめったに無いでしょう。普通の火山地帯でどのように地熱発電につなげられるのか。技術的には難しいものと思います。
このように、本書では原発が危ない、怖い、廃炉にはこういった問題点があるという点は良く分かりました。
しかし、その代わりをどうすればよいかは決して十分に納得できるものではありませんでした。
それは、「代替エネルギー」がスムーズに開発されるかどうかにかかっています。
私は、その開発を待っていてから行なうような原発廃止では遅れをとってしまうので、まずエネルギー消費量の半減ということを主張しています。
そこから、やりたければ代替エネルギー開発をやってもらえば良いだけです。
「本当に原発が怖ければエネルギー使用半減」これが最良の解決策です。