電気自動車の性能向上、そして太陽光発電や風力発電の出力平準化のための蓄電池の改良は不可避の課題となっています。
しかし電池の改良はこれまでも延々と続けられており、昨今の携帯電話の高性能化も電池の発展がなければできないものでした。
そのような電池の技術開発はどのように進んできたのか。
アメリカのシカゴ近郊にある国立のエネルギー研究所、通称”アルゴンヌ”を舞台に、その開発の歴史を刻んできた人々の物語を並べています。
著者はエネルギーやテクノロジーの分野の執筆活動をしているということで、科学技術の知識も深いもののようですが、本書の主題はその技術進歩というよりは、それに関わってきた多くの人々の伝記であるようです。
もう少し技術的、科学的な内容を期待していたのですが、残念ながらそういったものではなかったようです。
電池の開発研究というものは、好みもあるのかもしれませんが、それを目指す人はやや変わったタイプの人々かもしれません。
相当な能力を持つ人たちなのでしょうが、電池開発には実際に多くの作業をする必要もあるためか、毎日18時間仕事に携わるといった集中力が必要なようです。
また、そういった研究者だけでなく、かつての日本、現在の中国や韓国など多くのライバルとの競争に勝ち抜くだけのビジネス感覚を持つ人々の協力も必要となります。
そういった一人一人について、性格から能力、外観の特徴まで細かく描写してあり、読んでいるうちにやや飽きてきたと言っては言い過ぎかもしれませんが、その傾向ありでした。
ニッケル、コバルト、マンガンの3つの元素を組み合わせたNMC(三元系)と呼ばれる電池の正極材を作り出した、ハミール・アミーンという研究者は、モロッコのカサブランカ出身でした。
モロッコで大学まで出た後、奨学金を得てフランスのボルドー大学へ、そしてドクター取得後はポスドクとして京都大学にやってきます。
そこで中国人留学生のシャオピンという女性と知り合い、さらに職を求めてアメリカへ。
そしてアルゴンヌの研究所に入り猛烈に仕事をして数々の成果をあげたそうです。
こういった「バッテリー・ガイ」たちによって多くの電池素材が作られていきました。
本書後半は、エネルギー政策との関連によりガソリンで動く車からバッテリー駆動の車への方向転換、そしてそれを支えようとする電池開発者たちの苦闘が描かれています。
携帯電話に至るまでの電池の高性能化は小型化とも言えるものだったのですが、電動自動車への応用はそれとは方向が異なります。
大容量化という、これまでとは反対方向とも言える電池の進化が必要となります。
この方向はまだまったくその成果が明らかとはなっていないものです。
本書の記載も当然ながらその途中で終わります。
この先、どうなるかはこの本の範囲をはるかに越えることなのでしょう。