爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「中国正史 倭人・倭国伝全釈」鳥越憲三郎著

倭人といえば、中国古代に日本人を指して読んだ呼称であると言うのが一般的な解釈でしょうが、実はそれよりはるかに古い時代から中国南部などに住んでいた人々をも指していたようです。

それらの人々と日本人との関係というものはよく分からないのですが、鳥越さんはこういった倭人、倭族の一部が日本列島に渡ってきたのが日本における倭人の始まりだということを主張されていたようです。

 

中国の正史には「倭人」という記述があるものが、漢書から旧唐書まで11種に上っていますが、これまでの日本の学界では明らかに日本を指しているもの以外は無視されてきました。

しかし、中国南部に住む民族で「倭人」などと呼ばれていたのは理由があってのことであり、日本人を倭人と呼んだのも中国本土の倭人と関係が深いことが分かっていたからであるというのが著者の学説であり、中国の戦乱によって逃れてきたという歴史があったものということです。

 

このような立場から、中国正史に書かれている倭という項目をすべて取り上げて解釈を加えたというものが本書なんですが、その割には「ここは編者の誤解」とか、「中国の著者には日本の状況が分からなかった」という表現が多発し、自分の学説に沿わないものはすべてそれで片付けているのではと思わせるものがあります。

 

たとえば、奴国に触れてあるがその後ろに邪馬台国という大国があることは気がついていなかった、とか、魏志倭人伝帯方郡からの経路として21カ国の名が記されているが、「これらの国名は事実に基づくものではなく信じる必要がない」と断定されても困ってしまいます。

 

ちょっと期待はずれの印象が強い本でした。

 

中国正史倭人・倭国伝全釈

中国正史倭人・倭国伝全釈