「教育再生」と称しながら、その内容は教育破壊としか言えないような政策が推し進められた、第1次安倍内閣が2007年に崩壊しました。
この本は、その年に教育社会学がご専門の国際基督教大学教授の藤田さんが、他に尾木直樹さんなど5名の方々と政府の進めた教育再生政策がどのように誤っているかということを論じたものですが、「はじめに」を書かれた藤田さんは安倍内閣崩壊で安堵した様子が感じられます。
しかし、一時の民主党政権を経てさらに悪辣さを増して安倍が政権に戻り、さらに教育を破壊しているのを藤田さんや他の著者の方々はどのように感じておられるのでしょうか。
また続編が必要な本かもしれません。
本書構成は、6名の著者がそれぞれ1章ずつを担当し教育改革などの実態を論じています。
総論、藤田英典 教育改革の現状について
1章、尾木直樹 全国一斉学力テスト
2章、佐藤学 教師に対する管理統制強化
3章、喜多明人 厳罰主義(ゼロトレランス)
5章、中川明・西原博史 心の支配(道徳教育)
そして、最終章に教育改革についての著者たちの提言がなされています。
全国一斉学力テストについて、尾木さんはその危険性を様々な方向から論じています。
学力の状況を調査するだけなら、科学的に抽出する選択調査で十分なはずですが、それを全国の全学校に強制すれば、たとえ結果を公表しないこととしてもその結果が各学校の評価につながり弊害は大きなものとなります。
かつての学力テストでは学校ぐるみの不正や、成績不良者の受験回避なども起きました。今後もそのような事態になる可能性は十分にあります。
さらに、このようなテスト対策の勉強を強いられることにより、実際の学力はさらに低下することになるでしょう。
そして、この学校格差は学校選択制ともつながり、教育現場のさらなる悪化をもたらします。
教師の管理統制強化では、教員免許の更新制というものが取沙汰されました。
そこには、「不適格教師」の問題が、あたかも大きなもののように宣伝され、その選別が必要ということから、免許更新時に振り落とすというものですが、実際はそのような「不適格教師」なるものの実態はほとんど無かったもののようです。
正確な実態調査などはされているわけではなく、唯一出てきたデータは全国で700人程度というものでした。
これは全国の教師総数の91万人から見ればわずか0.1%以下です。一般の公務員や一般企業社員と比べてもはるかに少ないと言えるでしょう。
このような、あるかないかも分からない「不適格教師」追放を名目として教員免許更新を実施するために、10年毎に講習参加をさせようとしていますが、そうなると教員の1割が毎回居なくなることになります。
ただでさえ人員不足で忙しい教育現場はさらに厳しくなるということです。
教師の勤務時間の実態は、2006年で1日平均10時間45分でした。
連日、3時間以上の残業を、しかも無報酬で行ないさらに土日もクラブ活動指導などで潰れるという状態です。
他の著者もこのひどい状況の教育現場をさらに悪化させる教育政策について、細部にわたり論じています。
最初にも書いたように、本書は「まだマシだった2007年」の出版です。
現在はもっとひどいことになっているのでしょう。