爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「学力の新しいルール」陰山英男著

百ます計算”など、反復練習を強化するという陰山メソドを提唱した陰山さんの2005年の著書です。実際は百ます計算の考案者は別に居るようですが、陰山さんの考案と一般には思われているほど結びついているようですが、本書にも書かれているように、そればかりではなく家庭での基本的な生活習慣の確立と、計算などの基礎練習を反復するということで学力アップということを狙っています。

子供の学力には2度の危機があり、それにより低下したという主張です。その第1回は1981年で、これは家庭の生活が大きく乱れだした年だということです。このあたりで、テレビが一家に1台を越えて一人に1台という普及段階に入ってしまったということ、そしてテレビゲームが誕生し爆発的に広まりだすということ、またコンビ二が誕生し全国に開店しだしたということ、それとともに家庭で朝食をきちんととることが減ってしまったということなど、家庭生活の習慣が大きく変化してしまったということが学力低下につながったということです。
著者が小学校教師として勤務しだしたのもその頃ですが、テレビの見すぎで寝不足になり、朝食も食べずに登校しても勉強の能率は上がらないということで、きちんと朝食を食べさせるということを保護者に話したそうです。

しかし、その後も社会全体としてそのような傾向に歯止めがかからず、99年には大きな影響を与えた「分数のできない大学生」という本が出版されます。この本は私もちょっと前に読みましたが相当衝撃的な内容でした。
そしてそれとほぼ同時期に著者の陰山さんが校長を勤めていた兵庫県の小学校もその教育状況について取材を受けることも増えてきたそうです。

そして、著者のいわゆる「1993年問題」が始まります。学力低下の要因というのが生活習慣の乱れによるという本質を見誤り、「受験対策の詰め込み教育」を排斥するという間違った方向をとってしまい、これまでの教育水準を保っていた読み・書き・計算の反復練習を排除してしまったという愚策です。子供は指導するのではなく支援するという中途半端な姿勢になったそうです。
知識を多く教えるということもなくなり、わずかな例を出してあとは子供任せという変なことになりました。
それに対し、著者は百ます計算に代表されるような基礎反復練習を強化すると共に、保護者にも早寝早起きで朝食をきちんと取らせるといった生活習慣安定化の協力をもとめ、新たに赴任した広島県の小学校でテスト偏差値を大幅に向上させ、生徒のIQも上昇させたということです。
この辺は、偏差値といったものの性質や、IQ試験の胡散臭さも聞いたことがありますので、まあそんなものだろうなという気持ちもあり、まただからどうなんだという感想もありますが、一般的には学力向上と捉えるのでしょうね。

文中には、「学校で問題が起きると、世間は心の教育ができていないと批判するが、一生懸命働いてきた人達をリストラと称して首切りし、年間3万人を越える自殺者が出るような日本で学校を非難できるものがいるのか」という言葉があります。この点についてはまさに同感です。学校のいじめや体罰などばかりが非難されていますが、社会全体がいじめ体質じゃないですか。キリストじゃありませんが、本当に石を投げられるものだけ石を投げるべきでしょう。