東大、東京大学は日本でも随一の大学と言われていますが、最近ではその研究能力が低下しており、世界的な大学ランクでも下落しているということが言われています。
本書ではそういった研究力という話ではなく、「東大生・東大卒」の人々の能力低下が著しいという点を論じています。
ただし、刊行は2001年、ゆとり教育での学力低下が話題となっていた頃ですので、そういった点から見た話が多いようです。
編者は竹内洋氏と言う当時京都大学教授の方で、竹内さんの文章も含まれていますが他の多くは東大生の学力などについてあちこちに発表された文章をまとめたものです。
なお、実は私の友人・知人にも東大卒という人が多く、普通よりはかなり色々な東大卒という人々を知っていると言えます。
総体的な印象をいえば「真面目なガリ勉」が多いかというところでしょうか。
「やり手の営業マン」といったタイプとは正反対かと思います。
ただし、知人の中に「東大法学部卒」というのは居ませんので、もしかしたらそういった霞が関に多いタイプは別の印象を受けるのかもしれませんが。
とはいっても、私の友人・知人というのはだいたい私の同年配か年上、もう老人になりかけの人ばかりですので、最近の若い人たちとはかなり違うかもしれません。
それでは、本書内容の方に話を移します。
大学生の学力低下ということは、本書刊行の2000年当時にもかなり言われていたことで、「有名私大の経済学部学生が二次方程式が解けない」といったことが話題になりました。
これは、私立大の入試で数学を実施しないということが普通になりだしたことからも当然出てくる現象だったのでしょう。
しかし、全学科入試が実施されている東大でも、学生の学力低下は間違いなく起きているようです。
問題も違うので判断しにくいのですが、合格最低点が低下し続けているとか。
この辺はちょうど当時進行中であった「ゆとり教育」の弊害に言及しています。
ただし、ゆとり教育脱却を果たした現在でも学力アップをしたという話は聞きませんので実際は違っていたのでしょう。
東大入学生の親の年収が平均をはるかに上回るということも論じられています。
その親の職業は上層ノンマニュアルと言われる、専門職、医者、弁護士、大企業の管理職といったものが多いようです。
彼らが子女の教育に多額の費用を投資し、子供のころから予備校などで受験対策教育を十分に受けさせなければ東大合格が果たせないということでしょう。
このあたりの「私立中高の受験対策教育」と「予備校の授業」というのが学力低下の遠因なのかもしれません。
マジメな論議だけでなく、田中康夫氏や泉麻人氏の書いた「東大生の性意識」なんていう記事も載っており、そちらの方が読んで楽しむ分には面白いかもしれません。
なお、現熊本県知事の蒲島郁夫氏の文も載っており、政治学者の猪口孝氏との共著で「東大生の政治意識」というものでした。
そういえば、あの人は政治学者だったんだなと、熊本県知事選が行われた今あらためて認識しました。