日本と韓国の間の争いはますます激しく、もはや解決策はないかのようにも見えます。
この本は、2016年3月に福岡市で開かれた「福岡ユネスコ国際文化セミナー」でのシンポジウムの内容をそのまま本にしたものです。
上野千鶴子さんがコーディネーターとなり、朴裕河さん、金さん、水野俊平さんが講演者として発表、その後4人で討論という形式で行われました。
朴さんは、韓国世宗大学教授ですが、韓国で出版された慰安婦問題に関する本が大問題となり訴訟まで起こされました。
金さんは韓国ソウル生まれですが、現在は北海道大学の准教授、水野さんは北海道商科大学教授、どちらも日本と韓国の文化などの研究者です。
2016年という、日韓関係が非常に悪化していた頃に開かれたもので、「こんなにも悪化した日韓関係」と語られていますが、今現在(2020年)と比べればまだ良かった方かもしれません。
上野さんは日本韓国双方に忘れてしまった事柄があり、そのために相互理解が難しくなり関係悪化につながるのではという思いからこのテーマとなったのですが、参加者それぞれに色々な考え方があり、しかも本書はシンポジウムの発表をほぼそのまま文章化しているために、やや主題が分かりにくくなってしまったかもしれません。
このような大きなテーマで参加者が生でぶつけてくる主張を上手くまとめようなどと言うことはできませんので、印象的なエピソードだけ書き留めることにします。
日韓関係の一番深いところにある問題は「植民地支配」ですが、日本ではそこが忘れがちになっているようです。
韓国でそこが忘れられない最大の部分であるということをも忘れてしまいます。
慰安婦問題でも日本軍と政府ばかりを考えてしまうが、それに付随して多くの民間人の協力者がいたということです。
これには朝鮮人もいましたが、朝鮮半島に移住していた日本人もいました。
韓国国内の人々を「反日」「好日」で色分けようということをしがちですが、このように単純化することはできません。
同じ一人の人の中にもその両方が存在します。
韓国ではほとんどの人が解放後からずっと反日であるかのように考える人も居ますが、解放直後から1965年の日韓国交正常化までは、「倭色一掃」ということは言われましたが、戦争もあり経済も大変でそれどころではなかったというところです。
その後も軍事独裁政権が続き、それに反抗するのと連なって日本にも反発するということはありましたが、それほど大きな意識もありませんでした。
90年代頃から日本では韓流ブーム、韓国でも日本文化を裏で取り入れるということが多くなります。
それが日韓共催のサッカーワールドカップでさらに燃え上がってしまいました。
日本で嫌韓ムードが急激に高まるのも、李明博大統領が竹島に上陸したことからだといわれることがあります。
しかし、実際には日本ではそれをさほど問題視する人は少ないはずです。
それよりもはるかに大きく、日本人の多くを反発させたのが李大統領が「天皇に謝罪を要求」したことのようです。
これが日本人にとっては最大のタブーであり、地雷を踏んでしまいました。
上野さんが最後の締めとして取り上げているのは、韓国の民主主義が問題と言うけれどそれは日本の問題でもあるということです。
日本には本当に民主主義が根付いているのか。
周りの雰囲気だけを気にして動いているのではないか。
韓国でもそれは問題でしょうが、日本も同様なのでしょう。