爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「内陸都市はなぜ暑いか」福岡義高、中川清隆編著

真夏の暑さの中、毎日「猛暑日」という言葉を聞かないことがないようなこの頃ですが、特に暑い地域というのはたいてい決まっているようで、埼玉県や群馬県、静岡県岐阜県といったところが高温を記録したとニュースになります。

 

安易なニュースなどではお決まりの「地球温暖化」を持ち出しますが、実は埼玉県などでの夏の高温化についてはかなり前から気象学の研究対象として扱われてきたようです。

本書ではそのような専門家の研究のあれこれを立正大学の福岡さん、中川さんを中心とした人たちの共著でまとめられています。

 

なお、本書は埼玉県熊谷市で最高気温記録が更新された2007年8月16日のあとに出版されていますが、その日には岐阜県多治見市でも同じ40.9℃を記録しており、その2つがその時点での日本での最高気温となっていました。(現在はさらに更新されている)

この点について、著者の福岡先生はご不満のようで、熊谷では気象庁の地方気象台で正規の測定方法により得られた値であるのに対し、多治見はアメダスの測定装置がやや悪い環境の中に置いてあるので、片方がオリンピック記録であるなら、一方は未公認記録だとおっしゃっています。

 

都市の気象が他とは違う様相であることは近世になってからイギリスのロンドンなどで環境悪化として現れてきました。

日本でもすでに戦前に都市気候研究は始められています。

 

戦後から1960年代までは純粋に基礎研究として都市気候について調べられた論文が発表されていますが、現在、関連各分野で都市気候を研究されている人たちはその当時の論文には目を通していないことが多いようです。

 

その後は都市環境の悪化に伴い応用学的な都市気候研究が増えてきました。

温暖化の影響を見るという方向性から研究する人も増え、また屋上の緑化といった対策を研究するグループも増加していますが、これらの人たちも先人の研究に無頓着であるようです。

 

著者が本書の中でも出色の出来と自画自賛していらっしゃるのが、第3章の「内陸都市はなぜ暑くなるのか メカニズム」という文です。

ヒートアイランドの形成メカニズムとして、1,人工排熱、2,市街化(植生減少)による蒸発散の減少、3,キャノピーの熱収支変化、4,大気汚染による温室効果、5,建物による力学的混合により接地逆転を弱めるといったメカニズムが挙げられています。

 

なお、都市の中でも特に熊谷市で高温になるのは、海岸部であれば日中のもっとも暑い時間に海からの冷風が入り込み冷却されるのが、海岸から相当離れているために及ばないこと、それと西部にある秩父山地から吹き下ろす風がフェーン現象を起こして温度上昇をもたらすことがあるようです。

都市化」が高温化の要因として強ければ東京都内の方がはるかに強いはずですが、ちょっと離れた熊谷の方面が温度が高いというのはそういった原因があるからでしょう。

本書では取り上げられていませんが、もう一箇所の高温多発地域といえば静岡や愛知岐阜などの山沿いの地域があります。こういった地方にも同様の要因があるのでしょう。

 

まあこういった本を読んだからといって涼しくなるわけではないのですが、しょうがないなと思えるかもしれません。