「小さい交通」とは、自転車や小型電気自動車など、都市の交通として注目されている移動機関とのことです。
鉄道や自動車など、これまでは「大きな交通」に頼り、それに従って街の構造を変えていきました。
しかし、その使い勝手がどんどんと悪くなってきており、見直しが必要となっています。
著者の大野さんは、現在は建築家として都市計画を研究されていますが、かつて東大の工学部に居て、ちょうどその頃に大学院生として修士研究のテーマを探していた佐藤さん、齊藤さんとともに「小さな交通」と言うものを選びました。
今、様々な「小さな交通機関」が開発されており、それが未来の都市交通を担うのではないかと考えられるそうです。
すでに自転車などを主な都市交通機関としているデンマークやオランダにも出かけて調査を行ってきたということで、それをまとめて本としたものです。
本書の前半部分はそのような交通機関として開発されているものの実例の紹介、そして後半にそのような交通機関による未来都市の設計の考え方と言うものがまとめられています。
現在でもすでに大きな問題となっている、高齢者や身体障害者の移動と言うものも考えていかなければなりません。
電動車椅子も新たに移動性能の向上したものが開発されており、道路上での走行にも優れたものが出てきています。
また、そこまで障害が無くても、高齢になると歩行も不自由、自動車などの運転もできないという人が多くなってきます。
そういった人たちに使えるような移動装置、また公共交通として使用できるタウンモビリティの実例も触れています。
かつて、大都市近郊に数多く作られた、団地と言う集合住宅を多数集めた住宅街も、住民の多くは高齢者となり、また建設当時は機能していた商業設備も広域をカバーする大型施設の建設によって廃止されることにもなり、買い物難民化している人も多くなっています。
そういった人たちにサービスの方から巡回するという考えで移動販売の実施も出てきています。
後半部分はやはり大野先生が中心となって書かれているのでしょう。
交通手段の変化によって、町の様子も劇的に変化してしまうことを、ご自身の体験をもとに説明しています。
70歳の大野さんは岐阜市近郊の町で生まれ育ちましたが、子供のころにはまだ近所を路面電車が走り、馬車を使った運送業者もまだ残っていました。
その後大学進学で上京した1968年にはまだ東京にも都電が走っていたのですが、次々と廃止され地下鉄に代わっていき、自家用車を持つ人もほとんどいなかったのが続々と増えていきました。
このように、「大きな交通」にどんどんと変わっていくのはまるで「熱狂」のようであったそうです。
しかし、その「大きな交通への熱狂」はここにきて大き変わってきているようです。
民主主義というものは、一人一人の自由を保障するところを基本とします。
自分の意志で行きたいところに行くというのは基本的な要件です。
しかし、大きな交通が他を圧倒した状況で、住民の高齢化が進むとその移動の自由が大きく制限されることになります。
特に、地方では自動車が運転できない人は移動困難になるという状況になっています。
このような移動不自由を解消する方策が必要なのでしょう。
誰もが自由に動き回れるような都市、マルチモバイルシティー(MMC)と名付けていますが、それを可能とするような都市計画が必要とされています。
〈小さい交通〉が都市を変える:マルチ・モビリティ・シティをめざして
- 作者: 大野秀敏,佐藤和貴子,齊藤せつな
- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
- 発売日: 2015/09/10
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