爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「池上彰教授の東工大講義 世界編 この社会で戦う君に知の世界地図をあげよう」池上彰著

ジャーナリストの池上彰さんが2012年から東京工業大学リベラルアーツセンター教授として東工大の社会科学系の講義をしているそうです。

本書はその講義の内容をそのまままとめたものですが、「世界編」以外にもあるのかどうかは分かりません。

Lesson15までの15回分ということですので、実際の1学期の長さでしょうか。

 

憲法から経済、年金やメディアといった社会情勢から、国際情勢にまで様々な面から社会全般に渡る話をされているようです。

学生は東工大ということですので理科系という人々ですが、本書のあとがきにも触れられているように、理科系学生にも2種あり、文系・理系どちらの科目もよくできるけれど理系を選んだという学生と、文系科目が苦手なので理系に進んだという学生だそうです。

まあどちらが多いのかは知りませんが。

彼らにも分かるように話題を噛み砕いて伝えている様子は分かります。これまでの履修内容ではなかなか本格的に扱われていない分野の話かと思いますのでその点での苦労はあるでしょうが、理系学生が今後進んでいく方面でもきちんと知っていなければならないような話ですので、彼らがこの授業を受けたということは非常にためになることだったでしょう。

 

しかし、この講義内容の相当大きな割合の部分は学生たちがまったく聞いたこともない話なのでしょう。

まず最初には日本でも原爆を開発していたという話から入ります。これは戦争中の軍部での話ですが、その後敗戦してからアメリカ駐留軍は日本の原子力研究を完全に禁止しますが、その後突然のように原子力の平和利用ということがスタートするわけです。

 

日本国憲法は改正すべきかどうかという講義も3回めに行われます。憲法と言うもの自体、学生たちにはつかみにくい概念かもしれません。そのため、池上さんは各国憲法というものも例示します。例えば、北朝鮮憲法には「朝鮮労働党領導のもと」と労働党憲法に超越した存在であることを明記していますが、実は中国の憲法でも同様に、「中国の諸民族人民は中国共産党の指導のもと」とこちらも共産党支配が明記されています。

それでは日本国憲法はどうなのかということは、答えは出されていないようです。

 

経済学についてもあまり入門者向けの解説が無い中、なかなか簡潔にまとめられています。

以前の、マルクス経済学と近代経済学の対立から話を始め、マルクス経済学が消えた後にはマクロ経済学ミクロ経済学に分かれて進んでいます。

市場経済とは何か、景気とは何か、踏み込めば相当大変な話もさらりと流しています。

 

最終回の講義は学生の意見を発表させる討論としています。まだ経験も少ない学生たちでも話しているうちには要点を分かりやすく発表するというコツをだんだんと掴んでいくようです。

今の学生はこのような議論をするという経験はほとんど持たないでしょうから、これもいい訓練になっているのでしょう。

 

専門の教育者以外の各界の人々の大学の講義というものは、それぞれが各分野での知識を総動員して練り上げることから、非常にレベルの高いものになる可能性が強いものです。このような記録だけを見ても相当面白いのですが、傍聴できたらさらに興味深いものかもしれません。