爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ノーベル経済学賞 天才たちから専門家たちへ」根井雅弘編著

ノーベル賞は毎年10月になると話題になりますが、その中に「ノーベル経済学賞」というものがあるのが、何か異質な感じがしていました。

 

実は、ノーベル経済学賞と一般に呼ばれているものは、正式には「アルフレッド・ノーベル記念スウェーデン国立銀行経済学賞」というもので、1968年にスウェーデン国立銀行が創立300年を迎えた時にノーベル財団に働きかけて作ったものです。

その選考に他のノーベル賞と同じように、スウェーデン王立科学アカデミーが当たっているためにノーベル経済学賞というもののように思われがちですが、あくまでもノーベル記念賞であるということです。

 

ノーベル経済学賞(こっちの名称の方が使いやすいので)はその創設当初にはすでに経済学界にはサミュエルソンやヒックスといった超大物が揃っており、その誰から授ければ良いのかという順番だけの問題と言われていたそうですが、その後は大物には行き渡り各部門の専門家と言われる人たち(他の部門からは誰だかよくわからない)に広がっていきつつあるようです。

 

そういった、ノーベル経済学賞の受賞者の紹介を、京都大学大学院経済研究科教授の根井さんが中心となり、その後輩や教え子といった京大経済出身者の人たちが書いているのがこの本です。

 

第1期とも言える、1969年から1979年は現代の経済学の基礎を作ったパイオニアたちです。

サミュエルソンやヒッグス、ハイエクフリードマンなど、私のような経済学音痴のものにも聞いたことがあるような人々が次々と受賞しました。

 

第2期の1980年代は、実際の政治で新自由主義が採用され力を発揮する時代でもあり、ノーベル経済学賞もそれを反映させるものとなっています。

ただし、自由市場主義者だけが選ばれたわけではなく、ケインジアンバランスよく授賞させるという、ノーベル賞委員会らしい気配りの選考となっています。

また、すべての国際金融取引に定率の税を課すという「トービン税」提唱者のトービンもこの時期に受賞しています。

 

1990年代の第3期となると、これまでの経済学の枠組みには入らないような人々の受賞も続くようになります。

金融工学を扱った、マーコウィッツやシャープ、ミラー、ゲーム理論のコース、ノース、フォーゲルといった人たちの受賞には、経済学者からの批判もあったようです。

 

2000年代以降は、誰もが認めるような経済学界の巨匠という人々の受賞が一段落し?、それ以外の専門分野の功労者の受賞に移行します。したがって、ちょっと違う分野の人々からは名前も知らないといった批判が起きることも出てきます。

ただし、こういった状況は他の自然科学系のノーベル賞では最初から起きている事態でありそれほど変なわけではありません。

1995年には王立科学アカデミーがノーベル経済学賞の受賞対象分野を経済学に限らないという方針公表をしていますので、それに沿ったものであるといえます。

ただし、現在でも歴史学政治学は受賞対象とはなっていませんので、すべての社会科学とはなっていないようです。

 

これまでのところ、あまりにも左翼的な経済学者は除かれていると言われていますが、しかし経済学全体を広範囲に見た中から選ばれているとは言えるようです。

現代の経済学というものを見ていくにはノーベル賞受賞者を調べるのはある程度有効な手段と言えそうです。

 

ノーベル経済学賞 天才たちから専門家たちへ (講談社選書メチエ)

ノーベル経済学賞 天才たちから専門家たちへ (講談社選書メチエ)