爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「再読:資本主義はなぜ自壊したのか」中谷巌著

ちょうど1年ほど前に読んだ本をまた選んでしまいました。題が非常に刺激的なのでついつい手にとってしまうようです。
しかし、再読とは言え新たな発見もかなりあるようで、その点について書き留めておきます。

著者が1969年にハーバード大に留学した当時はアメリカの中流階級の生活が夢のようで「アメリカかぶれ」してしまったということなのですが、実はその時のアメリカ経済の反映をもたらしていたのは、今の主流になっているような新自由主義、市場主義経済学ではなく、その前の時代のニューディール政策ケインズ的政策、所得平等化の税制や社会福祉制度であったということです。その成果である中流階級の繁栄はその後の市場主義で無残にも失われ、世界でもひどい部類の格差社会になってしまいました。そこの時間差が判らずにアメリカの市場経済を信奉するのは間違いということです。

1970年代まで製造業主体であったアメリカ経済は1980年代になり日本やドイツの追い上げですっかり競争力を失ってしまいました。しかし、1990年ごろには情報通信産業にシフトし、さらに金融業が爆発的に発展することでグローバル資本主義を確立することができたということです。それで現在まで完全に優位を占めることになりました。

市場経済というものがほとんどの人を不幸にしているように見えるのは、取引するべきではないものを取引の対象にしたからだということです。つまり、「労働」「土地」「貨幣そのもの」です。20世紀初頭の経済人類学者のカール・ポランニーが批判していることです。
商品化できるものは「再生産できるもの」でなければいけないというのがポランニーの主張です。昔の人間も労働はしていましたが、労働そのものを金に換えていたのではなく、何らかの商品を作るということで金を得ていました。しかし、現在の労働者は働くこと自体を取引しています。これは人生そのものを売り買いしているということであり、実に非人間的なことだということです。
また、土地を商品化するということで、社会や環境を破壊するということにつながったそうです。土地と生産と社会というのは人間のつながりという点では大きなものだったのが、土地を売るということで社会自体を壊してしまったようです。日本でもその例はどこにでも見られます。
「貨幣そのもの」の商品化はマネーゲームというものです。これが現在の資本主義世界を揺るがせているのは明らかでしょう。
しかし、これらのポランニーの警告は無視され忘れられてしまいました。それが二度の世界大戦、そして現在の揺れる世界の原因かもしれません。
そして、その警告無視の最大の要因がアメリカという国家、そしてアメリカ人であったということです。

このようなアメリカ主導のグローバル資本主義にはヨーロッパ各国は一線を画しており、またオバマも大統領就任時は見直しの姿勢であったということですが、今となっては残念としか言えないようです。

なお、本書では「シニョレッジ」という言葉が使われています。ほとんど知らなかった言葉なのですが、最近他のところで知る機会がありました。
特にアメリカの基軸通貨ドルの発行による利益を示すようです。世界の人々がドルの価値が安定的であると認めている限りはアメリカにシニョレッジを稼ぐ権利が生まれるということです。
ただし、過剰な発行というものは危険であるのは間違いなく、今後の不安定要因かもしれません。

まあこれくらい内容の濃い本であれば再読とは言わず、3回4回繰り返し読んでいくのもいけないこととは言えないでしょう。そのたびに新たな発見をしていきましょうか。