爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「新興国経済総くずれ 日・米は支えきれるか」中原圭介著

著者は金融・経営コンサルタントだそうです。BRICsといわれるブラジル・ロシア・インド・中国などの新興国の躍進が語られてからしばらくたちますが、ここに来て大きくその立場が変わってくるというものです。

ただし、その根拠というのがアメリカを中心とした「シェールガスの本格生産」が始まることによる「シェールガス革命」によりエネルギー価格が大幅に安くなるからということなんですね。
シェールガスについては、このブログでも取り上げていますし、ビル・トッテンさんのブログhttp://kamogawakosuke.info/、やもったいない学会会長で東大名誉教授の石井吉徳先生のブログhttp://oilpeak.exblog.jp/i0/などでも繰り返し触れられているように、アメリカの生産会社の意図的な宣伝とそれを利用したアメリカ政府の政治的な思惑でかなり拡大解釈されて広まりました(詐欺的に)が実際は安価に生産できるのはごく少量であり、すぐに生産コストが高騰してしまう程度のもののようです。

したがって、この本の内容もその最大の前提条件が成り立たないということで、それ以上読む価値もないとして放り投げても良かったのですが、科学・技術的な知識はどうやら乏しそうですが経済の現状だけは見る価値がありそうだったので一応目を通してみました。

新興国といっても各国の事情はさまざまのようです。ロシアは天然ガス生産に頼りきっており、だからこそ「シェールガス革命」が起こると瞬く間に没落するだろうという予測がされていますが、さすがにすぐにそうなるとは思えませんが、やはり産業育成がないと言うのは今後に向けてかなり問題になりそうです。
ブラジルも鉄鉱石などの天然資源に寄りかかりすぎており、これも先行きの不安になりそうです。
中国はやはり政治体制の弱さからくる不安が強く、いきなりの崩壊も有得そうです。とくに人民解放軍の統制はまったく取れなくなっているようで、大きな不安要素です。
インドはカースト制度がいまだに足を引っ張っており、人材流出もとめどなく国内での成長ができないようです。
インドは環境面でも大きな問題を抱えており、ムンバイではPM2.5汚染が北京よりもひどいということです。ただし、ここでも著者の科学知識が疑われる記述があり、「日本ではPM2.5はゼロであり、計測されるのはすべて中国から飛来したもの」というのはちょっとどうでしょうか。半分近くは国内での発生ということですし、なによりも「ゼロ」という言葉は少しでも科学の知識がある人なら使わない言葉です。

アメリカが再びエネルギー産出の中心となって世界の工場に復活するという結論なんですが、まずそうなる見込みはないでしょう。前提が崩れるとすべて崩れるという見本でした。