爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「温暖化防止のために 一科学者からアルゴア氏への提言」清水浩著

アルゴアは有名な「不都合な真実」で政治的なプロパガンダとしては成功を収めていますが、その内容は科学的には見過ごせない数々の誤りを含むということで多数の批判を受けています。
したがって、本書も「科学者」としてそういった批判をしているものかと思ったのですが、とんでもなかった。

著者は現在は慶応大学の教授ということですが、国立公害研や環境研などを歴任、各所で電気自動車の研究をしてきたという人物です。
不都合な真実」を真実と考えてありがたがる人向けに、ご自分の研究対象の電気自動車が有効であるという宣伝をしたいというのが本書の目的のようです。
ここまでの判断で放り投げても良かったのですが、一応中味をぱらぱらと読んでみました。

中味はさすがに大学の先生らしく、具体的なデータが満載でわかりやすい図表も載せたものになっています。

二酸化炭素温暖化の説明はほとんどが引用でしょうか。ここはご本人の主張を正当化する基本ですので余計な論評はできなかったのでしょう。

枠組みとしては4点、電力は太陽光発電で、蓄電はリチウムイオン電池で、移動は電気自動車で、製鉄は水素製鉄でほとんど二酸化炭素を発生させること無く現在と同様の生活を送れるということです。

新たな技術を採用する条件として、新たな問題の発生がないこと、限界コスト、利用の容易さというものを挙げており、その姿勢は非常に妥当性があるものと思います。この点で環境破壊につながるガリウム砒素電池は落ちますし、ニッケルカドミウム蓄電池もだめでしょう。プラチナなどを少量でも触媒として使う装置も外れます。また原子力発電も増殖炉、核融合炉も実現可能性は低いということで、間違いはないでしょう。

ただし、ご自分の推薦する技術については本当にこのような問題は大丈夫なんでしょうか。かなり判断基準が甘くなっているのでは。
太陽光発電もエネルギーペイバックタイム(EPT)が2.6年という数字を挙げて問題なしとしています。これはNEDOの資料が出典ですがどうも内容がわかりません。EPTとは製造に使ったエネルギーを何年で作れるかという指標ですが、おそらく発電パネルそのもののみを対象としているのではないかと思います。また、実際の発電実績ではなく発電能力を計算の根拠としているのではないかと思います。(違ったらすいません。しかし判るように説明していない方が問題です)発電装置全体と実際の発電実績を対象とした数値ではないことは確かだと思います。

また、現在の数値ははるかに低くても研究開発が進めば大丈夫というのがこの本を含めよく言われることですが、コンピュータや精密工業の成功例で、技術は無限に発展するという概念ができてしまっているようでどうもこのような思い込みが世間に蔓延しているようです。
目覚しい技術の発展がある分野もありますが、その一方ほとんど昔と変わっていない分野も結構あるのではないでしょうか。現に核融合技術は進めばすごいと言われながらほとんど進歩する様子もありません。おそらく間に合わないでしょう。製鉄も今のところは数十年以上前と同じ事をやっているのではないですか。
本当に重要なエネルギー分野で実は研究開発をしても進歩しなければどうするのでしょう。無責任なことを言って人類の未来を閉ざした責任が取れるのでしょうか。

まあ、かなり眉唾なものだとは思いますが、百歩譲って清水先生の言うように太陽光発電電気自動車などの採用で成り立つものと考えて見ましょう。それでは、それは「何時の話」でしょうか。まさかいかに先生でも切り替えるとなったら来年から発電はすべて太陽光、新車製造はすべて電気自動車などということになるとは言えないでしょう。相当長い準備期間が要るということだと思います。
では何時までにできればいいのでしょうか。二酸化炭素温暖化の影響が大きくなる今世紀末まででしょうか。80年もあればできるかも、どうせ自分はもう死んでるしということですか。

実は私が以前から言っているように、石油の供給不安から大きなエネルギー危機に至るのはおそらくせいぜい10年内ではないかと考えています。10年の間に太陽光発電、リチウム充電池、電気自動車への完全移行が可能でしょうか。まさかね。
その程度の話ではないかと思います。