爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ダメな議論 論理思考で見抜く」飯田泰之著

著者は経済学者ですが、以前に平成不況の経済政策について本を出版したところいろいろなコメントが読者から届いたそうです。それらの特に批判的なものには反論し議論をしていったのですが、その中に「意味のある批判」と「意味のない批判」があることに気がついたということです。それを整理していったところ世間に良く見られる議論でもまったく意味のない議論を繰り返している例が非常に多いということで、その見分け方を伝授しようということです。

常識というものは必ずしも正しい知識によるものばかりではなく、「なんとなく」できてしまうことが多いようです。場の空気というもので左右されますがその中でダメな議論とまともな議論を見分けるものとして著者が提言しているのが5つのチェックポイントです。
1.単純なデータ観察で否定されないか。 近年の少年犯罪の増加という議論はよく目にしますが、どの統計を見ても犯罪件数は激減していますので簡単に間違いとわかります。
2.定義の誤解・失敗はないか。 経済問題の議論で時々通常の用語の定義を誤って使っている例があるようです。経常収支や財政収支といった言葉は決まった意味がありますので、それから逸脱した議論はそれだけで間違いとなります。
3.無内容または反証不可能な言説。 定義を明確にせず抽象的な議論を振り回すだけの論説は無内容というべきものです。反証不可能とは、いかようにも言い逃れができるような道を作っておき反論されたらそちらに向かうという議論のやり方ということです。
4.比喩と例話に支えられた主張。 定義を明確にし、データをそろえた議論であっても専門家以外の人々に理解を容易にするためには比喩はよく使われますが、その前提が無く比喩だけで話を組み立ててしまう場合もあるようです。ちょっと見には判りやすく説得力があるように見えますが、実は中味がないと言うこともあるようです。
5.難解な理論の不安定な結論。 社会科学系の論文などでは新しい理論というのはほとんどが基本的なものではなく、特異的な場合だけを扱うものとなりがちで、難解であり成立しない場合もあるようです。

政策の議論をする場合にもこのような注意点を前提にするべきなのですが、忘れてはならないことにコンティンジェンシープランの有無ということがあるそうです。これはリスクの可能性があるプランを実施する場合に、実際にリスクを受ける場合にその影響を軽減するような施策も考えておくということです。いわば撤退路を確保しておくということだと思いますが、第2次大戦時の日本軍にはこの思考法がまったく欠けていたために敗戦の時の損害がさらに拡大したそうです。
なお、小泉元首相は常に「仮定の話はできない」と言っていましたが、責任ある政治担当者は常に仮定の検討をしておくのが当然であり、本当にそれが無かったとしたらとんでもない話でした。

ダメ議論を見分ける方法についての叙述は確かにごもっともなんですが、本書後半の実例検討は著者の見方というものにより左右されるようです。気に入らないのがダメな議論という風にも見えかねません。批判する方がダメな批判ということもありえるように見えます。