爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「日本語の歴史Ⅰ 民族のことばの誕生」編集委員 亀井孝 大藤時彦 山田俊雄

平凡社から1965年に刊行された「日本語の歴史」全7巻が2006年に復刻刊行されたものの第1巻です。
編集委員筆頭の亀井孝はやや異端の言語学者と言われたそうで、簡単に日本語の成り立ちを説明すると言うような姿勢ではなく、何度も読み返して初めてうっすらと理解が進むと言うような本になっているということです。
したがって、今回もざっと拾い読みしたような状況ですので、とてもまともに評を書くようなことはできないかもしれません。
そこで、ところどころ感じたことだけ。

本書はまず最初に「言語の起源」というところから話を始めます。人類の起源は数百万年前からと言われていますが、その最初から言語があったのかそれとも途中からできたのかほとんど知ることはできません。1万年ほど前から文明化してきた時にはすでに高度な言語があったことは確かですし、それが各文明によりまったく異なった言語であったのも間違いないものですが、それがどこから始まっているのか、何も分かってはいません。

次章は「日本語列島はいつできたか」です。”日本列島”ではありません。本書が書かれた当時はまだ遺伝子解析が進んでおらず、日本列島への諸民族の流入というものが形態的な解析のみから進められていた時代ですので、現代の解釈とはかなり差がある面もありますが、いろいろな種族が繰り返し流入してきたと言うことは間違いない認識だったかと思います。その当初はそれぞれの種族は別の言語を話していたでしょうが、やがて皆同一の言葉を話すようになりました。それが「日本語」というものの成立であり、そこをもって「日本語列島」というものが成立したと言うことです。

それでも日本語の系統としては「アルタイ語」であると言うことは昔からよく言われてきました。それ以前には「ウラル・アルタイ語族」という言い方もされていましたが、どうやら「ウラル」語とは相当性格が違うと言うことが分かり、「アルタイ語」のみとなったようです。しかし、それにしてもアルタイ語だけでもモンゴル・ツングース・トルコ・朝鮮と非常に幅広いものであり、インド・ヨーロッパ語族と言われるような相互の関係と歴史的な背景も相当解析されているものとは大差があるようです。

朝鮮語と日本語は文法の構造がかなり似ていると言われますが、またその語彙がまったく異なっているということも歴然としています。これには朝鮮半島で現在の朝鮮語が統一を果たすまでに相当数の諸言語が滅んできたためではないかということです。有名なものだけでも高句麗語、百済語というものはおそらく日本語により近い関係であったのではないかと考えられますが、それらの国が滅ぶとともに言語も滅んでしまい、それがどういったものかということももはやたどることもできなくなっています。このようなミッシング・リンクは他にも多数あり、そのために朝鮮語と日本語の距離を埋めることができないということで、これまでの疑問がかなり氷解しました。

朝鮮語の統一と言うことと同様に、日本語もいずれかの時代で統一されたと言うことは確かです。それまでは方言というよりは別系統の言語であったものが、統合されたか吸収されたかはいろいろあるだろうけれどとにかく一つにまとまった、そういった時期が古代にあり、そこから日本民族という形も決まったのではないかということです。人種的には相当差がある諸民族が日本語と言うものでまとまったということです。
これは確かに実感がともなう話です。顔付きだけ見ても日本人にはさまざまなものがあり、朝鮮や中国、東南アジアの人々に近いような顔付きの人が多数居ますが、口を開いて日本語を話すのを聞くと一気に相手が日本人と言う実感が強く湧きます。それは古代のその頃からの習慣なのかもしれません。
そして、そこからくるもう一つの現象は日本語ぺらぺらの白人や黒人を見た時にどうしても感じてしまう違和感なのかも知れません。

古代における大陸からの帰化人という話では、私自身が前から感じていた件も明確に本書に述べられています。それは、古代シナからの日本へ帰化人というものは相当多数にのぼり、現代日本人の血統の大部分を占めているのではないかということ。そして、現代中国人はその後の北方からの民族流入で相当入れ替わっているのではないかということ。そのために秦漢時期以前の周代、春秋戦国時代のシナ人というものはかえって現代日本人が直接の子孫に近いのではないかという点です。春秋戦国の話に惹かれてしまうと言うのもそこに原因があるのでしょうか。

まだあと6巻あるわけですが、相当難物ですので続けて読むかどうか迷います。