爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「やさしいダンテ(神曲)」阿刀田高著

ショートショートやちょっと変わった味のある小説を書いておられた阿刀田さんですが、いろいろな古典作品を解説したエッセイも何冊も出版しています。これはその一つでダンテの神曲を扱ったものです。
ダンテは13世紀にイタリアのフィレンツェで生れ、その当時のローマ教皇と反対派の政争に巻き込まれて追放され、その後当時は方言としてしか扱われていなかったイタリア語で神曲などの作品を作ったということで、イタリアの言葉をラテン語の崩れた形というところから正当な言語としての評価を受けるまでに引き揚げた原動力ともなった人です。
神曲はそのダンテがまだ生きているにも関わらず地獄や天国などの死後の世界を訪れて多くの死者と触れ合いながら最後は神を仰ぎ見るまでの旅を記しています。

私もかなり以前に神曲の翻訳本を読んでみたことがありますが、様々な人々が何の注釈もなく出てきますのでほとんど理解することもできなかった記憶があります。
今回、阿刀田さんの解説を見てみるとその理由もよく分かります。ローマ時代やその後のヨーロッパの有名な人々ならまだその名前が耳にも残っていることもありますが、多くの登場人物は13世紀のイタリア、それもフィレンツェやローマなどのダンテ自身が絡んだ政争の味方や敵方であり、(当然、敵方の登場人物は地獄に行っていますが)まあほとんど現在では知られなくても仕方の無い人々でしょう。しかし、ダンテ当人にとっては直接の利害関係が濃厚な人々ですのでそこに密度の濃い書き込みがあるのも当然です。

最初に訪れる地獄はローマ最大の詩人と言われたウェルギリウスが案内します。ウェルギリウスはダンテからも非常に高い評価をされていますが、キリスト教が広まる前の人ですので天国には行けず地獄の手前の煉獄にいるからだそうです。
地獄も何層にも分かれた階層があり、最初はまだマシな方で最下層に行くほどひどいものになるということですが、その辺の描写は活き活きとしているようです。これは誰もが言っていることですが、地獄は面白く天国は退屈ということでしょう。
地獄から天国に行くとウェルギリウスは案内を続けられず、ベアトリーチェが案内します。そもそもダンテがこれらの旅を始めるのにもベアトリーチェが大きな役割を果たしたという設定ですが、そのベアトリーチェはダンテより少し年少の近所の少女で、ダンテが見初めて片思いをしますが家柄が違うのでほとんど進展も無く別の男性と結婚し、その後若死にしてしまった人だそうです。ダンテ自身も別の女性と結婚していますが、それらには関係なくベアトリーチェを神にも近いほどの神聖な女性と描いています。

以前に神曲を読んだときにはその登場人物にはほとんど知識も無かったのですが、最近はよくイタリア関係の書物も読んでいますので若干の知識が増え、地獄絵図の登場人物にも少しは顔が付いてきたように感じられました。