爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「電話サポートやめたら、みんな幸せになれた」横山正著

インターネットの初期にプロバイダーをはじめて㈱インターリンクを立ち上げた横山さんですが、会社設立のはじめには電話サポートということを社会通念どおりにやろうとしたところ、かかってくるクレームの電話は顧客が怒鳴っているばかりでほとんど解決につながらず、さらにそれで社員が重症のうつ病になったことで、そのような形態のサポートに疑問を持つようになりました。

最初の頃は社員十数人の小さな会社で、社長から電話サポートまで一部屋でやっていたのでかかってきた内容も全部分かったそうです。特にインターネットについては初期は回線の問題もあり、機器の問題もあり、さらにコンピュータ自体の問題やソフトの問題も山積みだったのですが、それをどこに聞いたらいいかも分からない利用者がとにかくインターリンクに聞こうということで電話するために、どこに問題があるかも分からずさらに状況をきちんと説明できるだけの知識も無い人が多いために感情的に怒鳴るだけでいくら時間をかけても解決にはつながらなかったようです。

そのような中で、まじめにサポートをこなしていた社員が精神的に不調となり、うつ病と診断されてしまい、社長の著者は大きなショックを受けます。そこで、このような非効率で社員にも大きなダメージを与える電話サポートというものに頼らない顧客サポートに進むべきと決断しました。

とはいえ、サポートしなければとてもまともに動かせるはずもないので何とか方策を考えていくわけです。
まず、最初の時期に無料のお試し期間を設け、それで納得できる場合だけ本契約とするということです。そこで不満があるようならなんの負担も無く解消できるということで、初期の何にも分からないまま電話してくるという状況を回避しました。
さらに、FAQの重視というものが必要ということでその取り組みをしていきます。最初は外注して対応しますが、そのうちに自社でのFAQシステム開発に進み、結果としてそのシステムも販売できるまでにしてしまいます。さすがというべきでしょう。

インターネット接続というサービスの特性か、著者が書くように「電話サポートを必要としている人ほど、状況を電話で説明できない」のも当然ですから、そもそもそういった手法は無理だったのかも知れません。
他社では無料訪問サポートという形で対応したところもあったようですが、そのコストは莫大でしかもそれを必要としない人にも負担させることになってしまいます。これでは価格競争力を大きく下げることになります。

私自身も電話サポートという形で聞くのは非常にまだるっこしく感じてあまり好きではありません。FAQで調べて解決できればそれが一番楽だと感じていますので、FAQのページが充実している会社というところは安心感があります。この辺のところは本書著者の判断が当たっていると感じます。

それにしても、このような電話サポートをするコールセンターというものが沖縄や五島など雇用の少ない地域に進出するという傾向はまだ大きいようです。こういった動きは、できるだけ低コストでやりたいという企業側の事情と、何でもいいから?雇用がほしいという地元自治体の事情が合っているのでしょうが、実態は上記のような理不尽な感情的クレームですぐに身体を壊してしまうということもあるようです。企業側の姿勢として「コールセンターは使い捨て」というものがあるようです。これについても著者の横山さんは大きな違和感を覚えています。

しかし、このようなFAQシステムメインの対応で可能というのは、契約で顧客が固定されているからなんでしょうね。しかも無料お試し期間設定で顧客を絞れるのでさらに条件は良さそうです。私も以前は食品企業で品質関係をやったこともあり、顧客クレーム対応なるものも経験したことがありますが、不特定多数の購入客相手のクレーム処理ではまったくこのような手法は取れないでしょう。うらやましい限りです。
まあそのような限られた条件下での話かもしれませんが、なんとかできないか考えてみるということは必要なのかもしれません。