著者の横山さんはインターネット普及の初めの頃からプロバイダーの会社を立ち上げ、徐々に会社を大きくして来られました。
私もいろいろと記憶がありますが、まだ装置やソフトの安定性も悪く、ユーザーの理解度も低い中で、うまく動かないということが頻発していました。
横山さんの会社(㈱インターリンク)も社員が数名しかいない頃から電話サポート部門を置き、ユーザーからの質問(抗議、いちゃもん)に対応したそうです。
しかし、そのような仕事をこなしていくノウハウもなく、手探り状態の中で他社の相談室見学や、日本能率協会の「クレーム処理研修」を受講といったことをしていきます。
あるコールセンターを見学に行った際には、その担当者の説明に「スタッフは長くて3年で辞めていく、言ってみれば使い捨て」という言葉があることに、大きくショックを受けます。
しかし、実際にクレームを入れてくる客の多くは感情的になっており、その怒号を聞かねばならない社員の精神的負担は大きく、実際に部下にうつ病を発症してしまった社員が出たことで、横山さんも本気で対応を考えます。
また、ちょうどNHKで「コールセンター急増の舞台裏」という番組が放映されました。
2006年のことですが、これを見てもオペレータの精神的ダメージの大きさ、そして離職率の高さが描かれており、やはりこのような仕事に対しての疑問が大きくなります。
そこで、横山さんが必死で考えた末に出した結論が、「電話サポートを廃止する」ということでした。
他にいろいろな方策も考えたのですが、コールセンターの外注もよそにその苦痛を背負わせるだけ、それが職のない地方の場合はそこに付け込んだようなことになります。
ただし、「電話サポート廃止」といっても何もアフターサービスがなければ売上は落ちるばかりでしょう。
そのための代替策が、「無料お試し期間の設定」と「FAQの充実」でした。
「無料お試し期間」とは、最初の1ヶ月(その後2ヶ月に延長)の間は無料のお試し期間とし、そこで満足した場合のみ本契約として有料契約、不満の場合はまったく負担なしに止められるというものです。
これは、「電話サポート」の一番多かった対象が「最初の立ち上げがうまくいかない」というものだったので、そこがクリアできればクレームも減るというものでした。
さらに、FAQ(Frequently Asked Questions:よくある質問)の充実というのも、当時としては斬新なものでした。
電話サポートをメールサポートにしても、そこで聞かれることはほとんどが同じようなものばかりでした。
それならFAQを作ってそれを充実させていけば対応できるということです。
これも、最初は汎用システムのFAQ製造システムを使ったのですが、社内ですぐに改定できるように自前でシステムを構築してしまいます。
コールセンターというものが、客の感情の爆発の受け皿となっているだけという状況は他の業種でも多いのでしょう。
横山さんが疑問に思ったのは、そのように怒りを爆発させた客はそれで納得したかということです。
事態が解決しない以上納得もするわけはなく、結局は怒りが爆発したということだけがその人の記憶に残るだけでしょう。
このようなコールセンターというものは、できればなくしたほうが良いのでしょう。
もちろん、横山さんの会社のような業態は良い方で、電話がなければどうしようもない業種も多いでしょうが。
最近はネット関係の不都合も少なくはなりましたが、初期の頃は大変だったということは、私も覚えがあります。
電話で聞いても要領を得ず、相手に自分の状況を伝えるだけでも上手くいかないというものでした。
たしか「初期お試し期間無料」という話も見た覚えがあります。
それが、横山さんの会社だったのでしょうか。
電話サポートやめたら、みんな幸せになれた! (アスカビジネス)
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