爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「白川静さんに学ぶ 漢字は怖い」小山鉄郎著

共同通信社の現在は編集委員を勤められているという小山さんですが、漢字学の白川静博士に師事され、直接教えを受けられたこともあるということで、白川漢字学のかなり詳細な解説をされています。

漢字の成り立ちについては、漢の時代の許慎が「説文解字」という本で解説していたものが従来の権威だったのですが、白川さんが甲骨文、金文(青銅器などに描かれていた文字)を詳細に検討することによって、許慎の説には相当間違っている点が多いということを指摘されました。
これは、許慎の時代と言えど実は漢字の成立の年代(殷(商)の時代)からは千年以上隔たっており、その当時でも元の意味の記憶は失われており、甲骨も土に埋もれて見る事はできなかったので、仕方の無かったことかもしれません。

白川さんの説を著者は色々な例を引いて解説しているのですが、実は本書の前に「漢字は楽しい」と言う本を書かれたそうです。しかし、その内容では漢字の成立時の生贄や刑などを表した文字の解説も含めたところ、読者から「漢字は楽しいというよりは怖い」という意見を受けたと言うことで、それならばとばかりに「怖い」漢字を集めたと言うことです。

例えば、謹、僅などの一部に見られる”キン”の元の意味は、「巫祝」(フシュク:神職者のこと)を焼き殺すという意味で、旱魃の時に雨を降らすことのできない神職を焼き殺しその煙を天に届かせることで天に思いを伝えるということのようです。したがって、その字を含む文字もその意味を含むということです。

また、「婦人」という婦は箒(ほうき)を含むために、掃除にこき使われる女性と言う誤解を生みましたが、ここで言う箒とは掃除のためと言うよりは、祖先の御霊所を清めるという役割のためであり、実は古代中国での主婦の高い地位を示しているということです。

正真正銘、怖い字としては「方」があります。これは邪悪な霊を防ぐために他所者を殺してその死体を村の四方に吊るしたというところを表した文字だそうです。

商の時代はまだ呪術に支配されていた時代であり、邪悪な霊、他族の霊というものを極端に怖れるあまり、そのような除霊のまじないが多かったようです。

なお、余談になりますが、天皇の自称で「朕」と言う言葉は”チン”と読んでいますが、これは本当は”ヨウ”と呼ぶべき字だそうです。もともと、商の時代にも王の自称として使われていたようですが、その後失われてしまっていました。秦の始皇帝がそれを発掘して再使用しだしたのですが、その際に読み方を誤ったようだと言うことです。
すでに古代史の中にある始皇帝ですが、それすらそのさらに古代のことを忘れていたという事例でしょう。