爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「日本の若者はなぜ希望を持てないのか 日本と主要6カ国の国際比較」鈴木賢志著

2014年に内閣府が「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」というものを発表しました。

日本およびアメリカ、イギリス、スウェーデン、フランス、ドイツ、韓国の、13歳から29歳までの若者を対象に、共通の質問項目を用いて行われた国際調査でした。

その調査結果のなかで、「自分の将来について希望を持っているか」という質問に対し、希望がある、どちらかといえば希望があると言う回答は日本では6割でした。

しかし、他国ではこの数字がいずれも8割以上でした。

 

この結果は一部の識者やメディアに指摘されましたが、いずれも「こんな国だからやっぱりね」といった形で扱われただけで、議論が深まることはありませんでした。

著者はこれはこれからの国造りを担う若者ということを考えても大きな問題であると考え、詳しい考察を加えることとなりました。

 

著者いわく、「最初はこの本のテーマは国民の幸福感とするつもりだったが、それよりも若者の将来への希望が大切」ということです。

 

なお、ここで扱う「希望」とは、希望の持つ語義のなかでも漠然とした将来への期待と言うことを指し、具体的なものの実現を願うことという語義は除くとしています。

 

若者が将来に対して希望を持つという場合、関わってくるのは「経済状況」「家族・人間関係」「学歴」「仕事」「社会との関わり」であろうと考えられます。

この本もその一つ一つを取り上げ、諸国と何が違うのかを詳細に検討しています。

 

まず、この調査を見て気になるのは、「若者」といっても13歳から29歳までとかなり年齢の幅が広いことです。

そこで、18歳まで、25歳まで、それ以降と分けて考えた場合、やはり「将来への希望がある」というのは若い年齢層に多いと言うことが言えそうです。

ただし、それも国によりかなりの差があり、日本では他国と比べて18歳までの希望ありがそれを過ぎると急激に低下すると言う特徴があります。

日本以外の国ではその落ち方はさほどでないのに、日本では高校卒業と同時に急減すると言えそうです。

 

日本の経済成長は低く、それが若者の将来への希望を引き下げていると言えそうですが、その中でも国内の格差により希望を持てる層、持てない層が別れてきます。

ただし、日本では実際には大きな経済格差が生まれているのに、それを気にしないようにしているとも言えそうです。

社会で成功する要因として、「身分・家柄・親の地位」というものを挙げたものは日本では7%と他国と比べてもかなり低いようです。

これが最も高いのは韓国で、40%以上の者が挙げていますが、他のくにでも日本よりはかなり高い数字を出しています。

一方、日本の若者が成功する要因として一番高く評価しているのは「個人の努力」そして「運」だそうです。

 

家族について、この調査対象の年代では前半ではまだパートナーは居らず、後半ではかなりの割合で有パートナーとなりますが、日本ではパートナー問題は深刻なようです。

また、恋人がいない人は希望を持てないことが多く、確実に関連しています。

 

学歴というものは、将来の仕事を選ぶに当たり大きな影響があるのは各国で同様ですが、その細部はかなりズレがあるようです。

ヨーロッパでは高等教育を受けるとそれに応じた職業に対する訓練も受けることになるのに対し、日本では大学であっても「自由な時間を楽しむ」というのが一番の目的となっており、「職業訓練」や「高度な知識」を身につけることを目的とする人は少ない状況です。

 

職業と希望の関係では日本は他国とはまったく違う状況が見えています。

就業者の職場への満足感は7カ国中最低、転職したいけれど転職はできない。

日本だけ、専業主婦の希望度が高い。

日本では一度失業してしまうと失業期間が最長。等々

これらはすべて、日本独自とも言える「新卒一括採用制度」の影響と言えます。

日本では大企業を中心に、新卒者のみを毎年一定数採用するという制度を取っています。

その時点での資格や実務能力は問わず、素質のみを信じて選抜し採用するというもので、コネが幅を利かす他国とは違いますし、職業経験や高度な専門性も問いません。

良い点もあるのかもしれませんが、弊害の方が大きそうです。

 

若者は社会に関心を持たないと言われていましたが、実際は関心を持つ人が徐々に増えているようです。

ただし、政治には関心を持てないようです。

これは、政治というものを教えることがほとんど無く、学校でも制度の説明はあったとしても実際の政治情勢などはまったく触れられることはありません。

そのため、現実の政治というものの知識、政治リテラシーが無く、関心の持ちようもないと言うことになります。

ただし、選挙に行って投票したとしても自分たちの要望や不満が政治に届くということを期待できないのも日本です。

自分の参加が社会を変えられるかという質問にNOと答える比率は日本が格段に高くなっています。

この質問にYESと答える人と、NOと答える人では、「将来に希望が持てる」と答える比率に大差があります。社会を変えられると信じられる人は希望も持てるということです。

これが低いということは、社会の硬直性を表しているとも言えます。

 

将来に希望が持てる若者が増えるためにはどうすればよいのか。そこが問題です。