爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「自滅する選択」池田新介著

「仕事を先延ばしにして遊ぶ」「好きなものを好きなだけ食べたい」といった心理で欲望のままに任せ、肥満したり借金漬けに陥ったりするというのは、よく見られることですが、このような心理の奥には「双曲割引」というものがあるそうです。

 

これは「行動経済学」という分野で研究されているもので、本書著者の池田さんはこの行動経済学を研究されている方です。

 

この本はこの「双曲割引」というものの解説、そして現実への影響などを記されていますが、経済学というよりは心理学的な要素が強いものと思います。

しかし、経済というものを大きく捉えたとしてもやはりこの心理的影響はそうとうなものなのかもしれません。

 

 そんなことがあるのかと言う思いもありますが、肥満と負債というものは高い相関があるということです。

2005年に大阪大学が全国規模で実施した調査によれば、住宅ローン以外の負債を持っている人とそれ以外で肥満傾向を調べたところ、男女とも負債者グループの方が高い肥満率を示したそうです。

同様の傾向は肥満と低貯蓄率の間にもあり、これは国としての調査でも見られます。

こういった「自滅選択」と言うべき生活態度は他にも喫煙やギャンブルの習慣にも見られます。

こういった自滅的な選択というものはそれぞれが正の相関を示します。

これらが直接的な因果関係を示すとはもちろん言えないのですが、その背後に共通した心理傾向があるものと考えられます。

 

このような自滅選択を理解するには、時間を通じた選択であるという事実があります。

現在の利益(満足)と将来の利益(満足)を秤にかけて選ぶという選択です。

具体的にはA今日の1万円、とB10年後の2万円のどちらを選ぶかということです。

このように、現在と未来の2時点の利益を選択するのが異時点間選択です。

 

この選択には人により大きな差があり、将来よりも現在の満足に高いウェイトを置く「せっかち」な人と、将来の満足のために現在我慢する「忍耐強い」人がいます。

これは実際に時間によりどの程度価値が下落していくかということが場合によって異なりますので、どちらが良いかは条件によって違いますが、それ以上に性格によってどちらを選ぶかが大きく変化するということです。

 

しかし、一般的に近い将来の方により価値を置きやすい傾向があり、これを「双曲割引」と呼ぶそうです。

 

また、毎回毎回同様に得られるものが、徐々に減るのには耐えられず、徐々に増えていくことを選ぶ傾向もあります。

これが年功賃金体系というものが存在する(した?)理由の一つです。

この意味では「朝三暮四」のサルは「朝四暮三」よりこちらを選ぶはずでした。

 

以前の経済学、新古典派という人々は私達人間は常に矛盾のない最良の行動を取るものとして考えてきました。

問題があるとすれば、情報が完全ではないとか、何らかの取引制約があるからといった理屈をつけたのですが、実際は私達の選択はそれほど合理的ではありません。

数々の自滅的な選択をしてしまいます。その傾向が特に強い人々もかなりの比率で存在しそうです。

 

本書を読んで行動を改善できるという人は少ないでしょう。なにより、そういった行動傾向の強い人はこのような本を読み通せる力があるとは思えません。

それよりは世間の指導層(政治家や企業経営者)などが人間とはこういったものだと理解してそれを少しでも是正できるような施策をするべきだという教訓が得られるということでしょうか。

朝四暮三のサル同然の人間に朝三暮四を教える必要があるということでしょう。

 

行動経済学という学問分野、なかなか面白いものと思いました。

 

自滅する選択―先延ばしで後悔しないための新しい経済学

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