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爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「小さな町の原子力戦争」田嶋裕起著

もう10年ほど前になりますが、核廃棄物の最終処分場の選定という問題があり、NUMO(原子力発電環境整備機構)がその地層処分場候補地の公募ということを行なっていました。

 

それに高知県の寒村が応募したという騒動があったのは記憶に残っています。

結局は反対運動が起きて立ち消えになったのですが、その当事者の当時の東洋町の町長であった田嶋氏がその事件の経緯を本にしてしまったというものです。

 

高知県東洋町とは、高知県の東端でほとんど産業もなく人口が減り続けているという過疎の町です。それをどうにかしなければという思いで町長はNUMOが募集していた地層処分候補地の調査に応募しようとしたわけです。

 

本書にも当時の町の窮状が書かれており、それに対して応募すれば交付金が貰えるという事情であったことも分かります。

 

その時の仕組みとしては、

自治体が応募、NUMOが受理、資源エネルギー庁が認可、

第一段階文献調査(2年)、第2段階概要調査(4年)、第3段階精密調査(15年)

最終処分場建設、操業といった手順になっています。

 

実はこの最初の「文献調査」という段階で、すでに自治体への交付金が出始めることになっていました。

それは2年間で2億円、平成19年度の東洋町の年間予算は21億円しかありません。そこに年1億円という金額は非常に魅力的なものであったということです。

 

田嶋町長の思惑としては、文献調査は受けるもののその次の段階に進む前に住民投票などで住民意思を確認し、おそらく拒否されるであろうからそこで撤退というつもりだったようです。

 

しかし、その応募の件が外部に知られるとすぐに反対運動が過熱します。

この辺の事情は当人のことだけに恨みつらみが書かれています。

県外からの反対グループも多数押しかけます。

さらに、当時の橋本大二郎高知県知事も反対の意思を表明するのですが、田嶋町長によれば調査の仕組みについて何も理解しておらず、すぐにでも最終処分場建設になるかのように考えていたのではないかということです。

 

反対運動の参加者もその点については皆同様であり、文献調査応募がそのまま建設につながるかのような錯覚を持っていたということです。これについては町長は常に言い続けていたようですが、結局は説得できるものではありませんでした。

 

その後、町長を辞任して出直し町長選で民意を問うということになったのですが、田嶋氏は反対派の候補に惨敗してしまいます。

 

本書はその直後の2008年に書かれています。もちろん東日本大震災福島原発事故の起きる前ですので、原子力政策は推進するというのが前提ですが、現在であっても最終処分場の問題は変わりません。

著者の田嶋さんには気の毒な話ではありますが、反対派の主張にも已むを得ないものがあると感じられます。

反対派の言うように、文献調査に応じたらずるずると次の段階に進んでしまうという、国の原子力行政に対する抜きがたい不信感は今でも多くの人が持っているでしょう。

田嶋さんはそのようなことはないという政府の返答を得たとしていますが、それもどうなるか知れたものではないというのが反対派の心情でしょう。

 

何より、「文献調査だけで2億円もの金をくれるわけがない」という庶民感覚の方が正常のようにも感じます。

そういった手法をとっている政府・NUMOが罪作りだったということではないかと思います。