爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「観光地の賞味期限」古池嘉和著

観光というものについては特に現在は地方の経済の落ち込みが激しく東京との格差が広がる中で、少しでも収入が入るようにとの期待から観光開発というものが注目を集めています。
しかし、様々な仕掛けで一時話題になっても継続的に観光客が訪れるとは限らずすぐに観光客数も減少ということも多いようです。
地域経済についての専門家である著者の古池さんは各地の観光開発についての活動支援も行ってこられたということですが、その難しさも熟知しておられるのでしょう。

自然を生かした観光というのは地方ではどこでも考えそうなことですが、農村というものを観光化しようとすると観光客による環境破壊というものも考えなければなりません。グリーンツーリズムという言葉だけは輸入されていますが、その実情はヨーロッパのものと異なり日本では環境問題というものについての認識がほとんどないという違いがあるようです。
著者は岐阜県の宮村(現在は高山市)という山村での体験合宿についても関わっていますが、著者の教え子の学生たちと訪れてもその感想を見るとホスト側の姿勢が徐々に変わってしまうということもあるようです。

同じく岐阜県明知鉄道というローカル線を観光の目玉としそこに大正村という大正時代の建物を生かした地域と、岩村城という歴史的地域を観光化しようとした地域がありますが、どれも観光資源として絶対の価値があるとまでは言えないものであり、その時々の流行で観光客の評価も変わってしまうという危険性があります。歴史的なものを観光客向けに変換するということはできないでしょうが、うまく利用するということにはアイディアが必要になるようです。

富山の八尾といえば「おわら風の盆」で有名になっており、メディアでの紹介も相次いだためにその祭りの時期には多数の観光客が訪れるようになっています。地元側の対応もいろいろと為されており、踊り手を集めて開催する有料の「ステージショー」というものも設定されており、観光客としては見やすくなっているのですが、地元の人々としては複雑な心情もあるようで、そこを離れた昔ながらの「町流し」という踊りになると心から楽しんで踊れるということがあるようです。

合掌造りの岐阜県白川村は世界遺産となり、観光客も非常に増えました。また交通も便利になったために車での来訪も増え、村内は至る所車の渋滞ということにもなる時があるようです。これでは観光資源としての価値が減ることになるのですが、それが観光客減少につながるのかどうか、まだわからないのかもしれません。
ただし、世界遺産というものは今でも毎年申請が続き続々と増加しています。世界遺産というだけではいつまでも客を期待できないのかもしれません。

本書は2007年の出版ですが、今年には産業遺産として軍艦島や三井炭鉱などが登録となる可能性が出てきたということで、九州の地元では観光化ということが話題になっています。これまでほとんど忘れられた廃墟が観光資源となりうるということで、地元にしてみれば好機ということなのでしょうが、そううまく行くのでしょうか。
また、このところ円安もあり海外、特に中国などからの外国人観光客が急増し、それに伴い観光地でのトラブルも発生しているようです。これで日本人の観光客が嫌気がさすということもありそうです。観光というものは非常に難しい面があり、ほんのちょっとしたきっかけで手のひらを反すように見放されることもあります。観光ブームというものも危うさを感じてしまいます。