爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「メモリーラボへようこそ」梶尾真治著

2010年の作品なので最近のものでしょうか。梶尾さんの小説はSF的なタネはごく一部だけであとは人間関係や真理など、通常の小説とおなじような書き込みをすることで作品の質を上げているようです。
この作品のタネは人間の記憶を保存して他人に伝えるようなことができる装置。それを使うことで、親子関係など込み入った心理を解きやすい形にしてしまいます。

記憶と言うものは個人的なものであり、なかなか人に伝えることはできないものです。文書などにすることでかろうじて伝える努力がされていますが、誰でもできることではなくほとんどがその個人の死滅により失われてしまいます。
実の子でもなかなか親の本当の心の奥底は伝えられてはいないものでしょう。それをできたらどうだろうというのが本書のテーマです。

この装置を運用するメモリーラボと言うちょっと怪しい会社をめぐり、2編の物語が収められています。

うちの父親も6年前に亡くなりましたが、その生涯の記憶のうちごくわずかだけを伝えられたのみでほとんどはそのまま持っていってしまいました。いろいろと聞いてみたいこともありましたが、そう思っているうちにほとんど聞くこともできなくなりました。
言いたくないこともあったかと思います。しかし、その部分も聞いてみたかったと思っても今となってはどうしようもありません。