中国の成長は著しく、とうとうアメリカと事を構えようかというところまで来てしまいました。
しかし政治的な問題はともかく、経済的には上手くすればアジア圏を再編できるかもしれないとも言える段階には近づいているのかもしれません。
この本は少し前の状況で書かれており、平和的な手段で中国が主導するアジア経済圏ができるかもといった希望的観測の中での「人民元の覇権」を扱っています。
まあ今となってはもうほぼ実現性のないことになっているのかもしれません。
アメリカ・ドルは第二次大戦後の世界では圧倒的な力を握り、西側諸国の基軸通貨となり、さらに共産国の解体の後では全世界に覇権を広げました。
しかしアメリカはその立場を利用するばかりで、それにふさわしい振る舞いをすることがなく、何度も世界的な危機を作り出してしまいました。
アジア経済危機、リーマンショックなどの世界金融危機など、皆アメリカの身勝手な振る舞いが引き起こしたとも言えるものです。
アジア諸国がなす術もなく経済危機に引き込まれるのも、ドルに完全に頼り切った経済運営をしているからで、別の手段を保持することでリスクを減らすことはできるはずです。
ヨーロッパは数十年先行して経済統合に進みユーロを立ち上げて何とか動かすことができました。
様々な失敗も含んでいますが、そこには参考にすべきものが数多く存在しています。
しかしそのような方向にアジアが向かうことはほとんど考えられません。
各国の事情があまりにも違い過ぎるため、そこを一つ一つ解決していくのではいつまでたっても近づかないでしょう。
しかしこのままドル依存を続けていけば相変わらずアメリカの都合で振り回されることが続くでしょう。
そのための道筋を示したものですが、本書刊行当時(2013年)にはまだ日本円の力も大きかったのですが、今となってはもはや人民元の前にほとんど力を失ってしまいました。
本書の見通しも人民元優勢という方に傾いてそちらだけを読めば良いのかもしれません。
かつての世界の経済地図と大きく変化してきたのが、ものやサービスの取引という実体経済をはるかに上回る投機資金が流通していることです。
2010年頃の数字ですが、財・サービスと言われる実体経済の金額は世界のGDP総額が63兆ドル、そのうち国際間取引が18兆ドルと見積もられます。
しかし、金融総資産は実に200兆ドル、そのうち国際取引には58兆ドルが振り向けられています。
デリバティブ取引額はなんと604兆ドルということで、実体経済のはるか彼方です。
このような肥大化した金融が実体経済を支配するのが「グローバル金融資本主義」です。
通貨・金融危機もこのようなグローバル金融資本の気まぐれな動きに翻弄されて起きており、アジア通貨危機もその一つであったと言えます。
このような投機アタックに狙われないようになんとか経済政策を動かしていく必要があります。
国際金融のトリレンマという話も興味深いものでした。
資本移動の自由化、為替レートの安定性、金融政策の自立性という三つの項目は同時に実現するのは不可能です。
どうしてもその内の一つはあきらめなければならない。
日本は変動相場制をとることで為替レートの安定性は放棄してようやく金融政策の自立性と資本移動の自由を確保した。
ユーロ圏では金融統合により資本取引の自由化は確保したものの、通貨統合をしたために金融政策の自由性は全く無くなってしまったということです。
なお、本書執筆時にはまだ安倍政権のアベノミクス始動の前であり、円高デフレが進行していた状況ですが、著者はそれには批判的です。
円安にすることが国益という判断ですが、現在もそう言えるのでしょうか。
まったく、経済本というのは生もののようなものです。