爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「資源争奪の世界史」平沼光著

世界の歴史を見ていくと、戦いというものが資源を奪い合ってのことだということが判ります。

この本ではそういった資源の争奪という点について描かれています。

 

ただし、「歴史」という意味が出ているのは前半部分であり、後半では現在そして将来についてまで話が進んでしまいますので、「世界史」と言う題は少しずれてしまうのかもしれません。

 

また、前半部分の歴史解釈という点ではなかなか鋭いものが感じられ、描写も的確という印象があるのですが、後半部分の現在および今後の資源についてはあまりにも楽観的な見方が優越しているようです。

 

曰く「シェールガスの埋蔵量は数百年分ある」、「日本近海のメタンハイドレートの量もすごい」、「スペインの再生可能エネルギーは中国も注目」、「ブルーエコノミー、海洋資源の活用では洋上風力発電、潮力発電、海洋温度差発電など多くの可能性がある」

こういう人が政府のエネルギー関係の各種委員会の委員を務めているようですから、その指針も狂ってくるわけです。

ちなみに、エネルギなどの資源埋蔵量というものはとても正確な評価はできず、しかもその当事者たちが恣意的に過大に見積もるということはあり得ることです。

メタンハイドレートなどはエネルギー資源としてはほとんど意味を持ちません。

ただ単に「存在する」だけです。

スペインは確かに他のエネルギー資源が乏しいために太陽光などを多く取り入れようとしていますが、その結果現在では電力会社各社は多額の負債を抱え経営困難になっているようです。

海洋関係では、潮力や温度差などは夢物語、唯一少しだけ現実性がある洋上風力発電も実際にはコスト的には全く合うはずもありません。

 

まあ、一応前半の歴史部分で見るべきところを紹介しておきます。

 

本書冒頭では、まず「香辛料」を取り上げています。

香辛料が資源かと思いますが、中世からヨーロッパでは香辛料というものが非常に高い価値を持ち、その獲得ということが海路の開拓や各国東インド会社の設立などにつながりました。

その意味でも十分に「香辛料は資源だった」と言えるということでしょう。

それにしても、香辛料をかき集めてヨーロッパに向かう船を各地で襲って積み荷を奪うという海賊行為を、ヨーロッパ各国が競ってやっていたというのは、彼らの本質をよく表しています。

海賊と言えばカリブばかりが有名ですが、実際にはアジアやアメリカからヨーロッパに向かう航路のあちこちで出没していたようです。

 

石炭から石油へとエネルギー資源が移り、さらに石油を使った内燃機関の発明で一気に世界は変わりました。

石油争奪が第二次世界大戦につながったという話は有名ですが、実は第一次世界大戦の行方も石油が大きく左右していたそうです。

その当時の石油産出は世界の6割をアメリカが、そして2割をロシアが占めていました。

すでに戦車や戦闘機、軍艦の燃料が石油になっていたその時点では、石油を確保することが戦いの結果に大きく影響を与えました。

そして1917年になりアメリカが連合国側について参戦するということが、戦闘のエネルギーを与えることとなり、石油確保の難しいドイツ・オーストリアオスマン帝国の同盟国側には非常に不利となりました。

その時にフランスの首相クレマンソーがアメリカのウィルソン大統領に送った電報にあったのが「石油の1滴は血の1滴」という有名な言葉だったそうです。

 

まあ途中からちょっと変な方向に行きましたが、参考になる部分もありました。