爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「意外と会社は合理的」レイ・フィスマン、ティム・サリバン著

現在は世界的な大会社となっている企業でも、創業当時は夢とアイディアにあふれた創業者が協力者数名とともに自由な発想を生かして優れた商品やサービスを作り出し、大ヒットを生み出しました。

しかし、そのような会社でも徐々に大きくなっていくと社員は増え管理部門が肥大し、官僚化が進み硬直し、活気が失われていきます。

かと言って、大企業でも社員を自由に振る舞わせればよいかというとそんなことはありません。

活気が出る代わりに不正や犯罪がはびこるのが関の山です。

 

どこにその問題点があるのか、気鋭のコロンビアビジネススクール教授のフィスマンさんとハーバード・ビジネス・レビュー・プレス編集長のサリバン氏が組織論を科学的に組み立てていきます。

 

スコット・アーバンというメガネ職人が一人で作成しているアーバン・スペクタクルズというメガネフレーム会社の商品は一本1000ドルという値段ですが1年に30本しか販売できない(なにしろ一人で作っているので)ので予約待ちの状況です。

しかし、スコットは社員を増やして製造量を増やし会社を大きくしようとはしません。

 

1930年代にビル・ヒューレットとデイブ・パッカードが作った会社も最初はアーバンスペクタクルズと同じようなものでした。

しかし、彼らは会社を次々と増強する道を選びました。

それでも最初は従業員を「家族」と呼び、会社をベンチャー企業のような親密さや発明力、高い品質を維持できるようにする努力をしていました。

しかし、1990年代には10万人の従業員をかかえ、「会社は深刻な病をかかえており、その一因は行き過ぎた官僚主義にある」とニューヨークタイムズ紙に書かれました。

深刻な不振にあえぎ、代わった経営者は数万人の首を切る羽目になりました。

 

スコット・アーバンが怖れるのもそのような企業になることかもしれません。

それでも皆が組織を作り大きくすることを選ぶのは、個人でできることより多くの大きな仕事をしたいからでしょうか。

 

組織として動く典型的な例が軍隊でしょう。

兵士一人一人がイノベーションを追求していたのでは作戦は遂行できません。

したがって、アメリカのウエストポイント(兵学校)では命令への絶対服従と言うことを叩き込まれます。

ところが、このような命令服従だけを追求してそれに秀でた者だけを戦場に送ったら予想もできない事態には対応することができずあえなく全滅ということにもなり兼ねません。

戦場での指揮者には命令服従能力だけでは足りないイノベーションがなければならないのです。

 それを解決するためにウエストポイントでは一部のエリートコースに一般科学のコースを設けているようです。

 

組織文化というものを経済学で科学的に解析しようという試みも行われました。

学生を対象とした実験で、オフィスの仕事を模した作業をさせ、その最適化を図ったところメンバーはすぐに慣れてその仲間内だけの合言葉まで作ってしまったそうです。

その次の段階として、(企業合併を意識して)グループを結合させたところ、それまでの合言葉がうまく伝わらなくなり混乱しました。

その結果、新入りの人には敵意まで持つようになったそうです。

企業合併がうまく行かない理由と言うのは、このような小さな行き違いが心理的に作用するということがありそうです。

 

今の大企業のCEOという連中は、巨額の報酬を受け取るようになりましたが、それで何をしているかと言えばほとんどは会議のみです。

その会議がともすれば取り巻き連中がCEOの意図をくみ取り忖度するだけの場になっていることがあります。

これが大企業が動きを鈍くし衰退する原因の一つにもなっているようです。

 

私も長く会社勤めをしましたが、やっている間には分からなかったことが辞めた今では分かることがあるようです。

組織というものの問題点、しかし組織でなければできないこと、なかなか難しいものです。