爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「人類20万年遙かなる旅路」アリス・ロバーツ著

現生人類は20万年前にアフリカで生まれ、その後世界各地に広がっていったと考えられています。

その足跡は多くの考古学者たちの発掘調査で判明してきました。

その現場、そして出土した人骨や石器などを実際に見てやろうという企画をイギリスのBBCテレビで担当したのが、本書著者のアリス・ロバーツです。

彼女は医師で古生物学者でありながら、一般向けのテレビの科学番組にも出演しているということです。

 

各地では実際に発掘調査にあたった考古学者などに現地案内を依頼するといった、恵まれた状況での取材だったようですが、ほとんどが人里離れた厳しい環境であり、大変な旅行だったものと思います。

 

ただし、このようなシナリオによる人類の広がりは「アフリカ単一起源説」によるものですが、著者が各地で出会った考古学者たちの中には各地の原人がそれぞれ進化してきたという「多地域進化説」を支持している人も居るようで、話が噛み合わない場合もあったようです。

DNAの分析が近年非常に速く進歩しており、もはやほとんど単一起源説で決定と思っていましたが、そう簡単にはいかないもののようです。

 

20万年前にアフリカで誕生した現生人類は、しばらくの間はアフリカ大陸の中だけで広がっていきました。

そのため、アフリカ大陸の中では非常にバラエティに富んだ人種の相違というものが存在します。

逆に、アフリカを出てから広がった人々はおそらくただ1回(異論はありそうですが)しかも少ない人数でアフリカを出発しました。

そのため、人種のバラエティも少なく遺伝子的にはほとんど差のない人々が多いようです。

 

アフリカを出ると一言で言っても、それは非常に厳しい道です。エジプトからイスラエルに抜ける道はほとんどが砂漠であり長い旅は難しい環境です。

現在のソマリアから対岸へ海を渡る道もありますが、そのためには何らかの舟を使わなければなりません。

著者はそのどちらにも足を運びます。

 

アフリカから中東に渡った人類は、その後は東側のインド方面に広がっていきます。

ここからすぐにヨーロッパ方面には行けなかったようです。

そしてそのままオーストラリア大陸まで広がっていきます。

ここで問題なのは、インドネシアのトパのカルデラ火山噴火です。

74000年前のこの噴火で大量の火山灰により太陽光がさえぎられ、当時の人類は多くが死亡したという説もありましたが、どうやらそこまで酷い環境にはならなかったという見方がされています。

なんとか生き延びた人類はさらにそこからアジア各地に広がっていきました。

 

ヨーロッパに現生人類が広がったのは、かなり遅れた時期であったようです。

インドや中東の海岸に広がった人類が、ヨーロッパ方面に行こうとしてもザクロス山脈やシリア砂漠、ネフド砂漠に行く手を阻まれました。

ヨーロッパに向かったのはアジアを迂回したもののようです。

 

ヨーロッパでは他の地方と比べて他系統の人類、ネアンデルタール人が多かったようです。

氷河期にも南部に逃れて生き延びていた彼らと、現生人類とはどうやら同じ時期に住んでいた可能性もあります。

ネアンデルタール人が文化というものを持っていなかったかどうか、まだ明らかではないようです。

現生人類がネアンデルタール人と殺し合ったのか、それとも平和的に交わったのか証拠は見られないようです。

(他の本の記述によれば、現生人類にもごくわずかですがネアンデルタール人由来の遺伝子の一部が残っているようです)

 

この旅の最後は現生人類が遅れて到達した新大陸に及んでいます。

アメリカの先住民族はアジア系でしかもかなり新しい時代にベーリング海峡(当時は陸続きでした)を通って渡ってきたために、遺伝的にも非常に近い人々だと思っていましたが、実は結構バラエティに富んでいるという発掘資料もあるようです。

 

人類の移動と分布ということは、できるだけ理解しやすいように簡略化したいという思いがあるためか、例外を無視して大きく原則論で捉えがちですが、考古学的発掘の現場ではそう簡単にまとめられないものもたくさん見られるようです。

そういった具合に議論を戦わせながら真実に近づいていくものなのでしょう。

 

生命進化の偉大なる奇跡

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