類人猿の祖先はアフリカでサルの仲間から分離して進化し、3000万年ほど前には独立しました。
その後さまざまな種が出現しましたが、その多くはアフリカで発見されています。
ただし、1300万年から1000万年前の間の類人猿の化石はアフリカから見つかっていません。
その代わり、その後ヨーロッパとなる地で類人猿と見られる化石が発見されています。
この点を捉え、著者の人類学者ビガン氏は1600万年前に初期の類人猿がアフリカを出て主にヨーロッパで進化し、その間にアフリカでは類人猿の種は途絶えていたという仮説を立てました。
つまり、類人猿の進化の系譜はアフリカからヨーロッパに続き、それがその後の気候変化でヨーロッパからアフリカに再度戻ってその後アフリカの地で進化を続けて最終的に新人類まで続いたということです。
この仮説を説明するため、著者は多くの類人猿の化石についてのこれまでの研究成果を詳述し、ヨーロッパに見られる類人猿とアフリカの前後のものの化石の連続性を証明しようとしています。
ただし、本書冒頭に置かれた「日本語版解説」で、国立科学博物館の馬場悠男さんは次のように書いています。
「本書は、著者の説明が親切すぎるほどに詳しく、専門的な用語や概念も使われているので、予備知識のない読者は戸惑うこともあるかもしれない」
ということで、馬場さんの要約が解説に書かれています。
これだけを読んだ方が分かり易いかもしれません。
アフリカでは1300万年前の堆積層から、1000万年前のところではこれまでのところ類人猿の化石が見つかっていません。
その一方、同時期のユーラシア大陸、アジアとヨーロッパでは多くの類人猿の化石が見つかっています。
なお、アジアではその後も続いて見つかるのですが、ヨーロッパでは類人猿の化石は長く途絶えることになりました。
ヨーロッパの類人猿が単に絶滅したのではなくアフリカに戻ったのか。
それを証明するためにはまだ多くの化石発掘が待たれるようです。
考古学の厳しいところだと思いますが、「まだ出ていない」は無いことの証明ではないということでしょう。
しかし、この本で示されているものは魅力的な仮説ではあります。