何とも刺激的な題名ですが、中味はまあ正論に近いものでしょう。(”正しい論議”という本来の意味の”正論”です。決してあの名と体と乖離している雑誌のことではありません)
著者は雑誌社の編集を経験された作家ということですが、本名は不明ともあります。
本書に掲載されたものは、週刊プレーボーイ誌に連載されたコラムを加筆したものだそうです。2012年から約2年間のもので、その時々の政治経済、社会等のニュースについて語っているのですが、一応は一般メディアの論点とは異なるところから論じるように努力されたとのことです。
政治・経済・社会・心理と分類されていますが、おそらく掲載順ではなく適度に配置されているのでしょう。
日本の右傾化という問題を扱っている記事の中で扱われていた話題では、日本人はアメリカ・中国人に比べて非常に「自己評価が低い」という特性があるそうです。
まあアメリカの若者が勘違いで「自分は平均以上に優秀」と自己評価するというのもどうかと思いますが、日本人の若者は自己卑下とも言えるほどの評価だそうで、これは文化的な特性なんでしょう。
ただし、日本人は自己評価は低くても自己を含む人間関係は高く評価しているそうです。
これを著者は「日本人は”俺”ではなく”俺たち”を自慢しがち。自分は大したことはないけど会社は一流。とか、ニホンは世界から尊敬されているとか。いう意識につながっている」と書いています。
これがひいては右傾化ともつながるのでしょう。
格差が広がり、テロや環境破壊、犯罪の増加で私達の社会はどんどんと悪い方に向かっていると皆思っているが、今の時代はこれまでの歴史上もっとも幸福な時代であると著者は述べています。
まあ「今は」まだそうでしょう。
中国はこれまでの15年で3億人が貧困から抜け出し、2030年までには新興国を中心に新たに20億人が中流階級に加わるとも書いてあります。
そこまで言われるとちょっと著者の判断が甘過ぎではないかと言いたくなってしまいます。「新たに20億人が中流」を許すだけの資源もエネルギーも無いでしょうに。
ブラック企業と呼ばれる、雇用者に対する過酷な労働を強いる企業が増えていると言われています。
著者は、これを生んだのは日本的雇用そのものだと言っています。
日本的雇用では、終身雇用と引き換えに社員の絶対的な服従を求めました。日本の裁判でも不当な解雇には厳しく対処する一方、転勤や配置転換については概ね労働者側の不服は認めない方向でした。
こういった「絶対的服従を正社員に求める」という慣習を悪用できるということに気付いたのがブラック企業です。
パートや派遣社員は給料は安い代わりに無理を言えばすぐに辞めます。そこで一応正社員としておいて後は死ぬまで働かせるということになりました。
ブラック企業を厳しく取り締まるべき政府自体が、中央だけでなく地方自治体でもサービス残業が横行しており、「ブラック政府」と化しています。ブラック政府にはブラック企業の取り締まりはできないでしょう。
その他、様々な事件についてこういった論調で語られています。基礎知識のない読者は振り回されるかも知れません。
私も基礎知識を持っている分野の記事ではおかしな点も分かりますが、それ以外の分野ではどうだか分かりません。