爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「”おこぼれ”経済という神話」石川康宏著

トリクルダウンなどという英語で誤魔化していますが、日本語で言えばまさに本書題名お「おこぼれ」経済です。

英語では語感までは分かりませんが、「おこぼれ」経済と言う方がその薄汚い真実をよく示していると感じます。著者の鋭い感覚なのでしょう。中身も十分にそのうさん臭さを暴いています。

 

本書はまず戦後の日本経済の概観から始められていますが、簡潔で十分なものとなっています。

1950年代半ばから1970年代までの高度成長期には曲がりなりにも大企業の成長と国民生活の上昇と言うものが両立していました。そこでは「おこぼれ」が機能していたとも言えます。

しかし、高度成長から低成長への転換期に大企業は集中豪雨的とも言われた輸出拡大策をとり、その方策の中心としてリストラと低賃金政策を位置づけてしまいます。その結果、すでに大企業の潤いというものが「こぼれなく」なってしまいます。

さらにその後の海外生産の本格化により産業空洞化が大きくなり、雇用も輸出してしまうということで国民の収入の低下につながります。

 

アベノミクスがいみじくも目指した「日本を大企業が世界一活動しやすい国にする」という方針は「国民の潤い」とは何の関係もないものとなっています。

 

バブル崩壊後の日本経済は「失われた20年」などと言われています。

日本は輸出立国などと言われていますが、実際は輸出依存度というものは14%に留まっており、世界の平均の26%よりはるかに低いものです。これは高度成長期も現在もほとんど変わっておらず、実は日本は国内の消費力で成長してきたというのが本当のところです。

しかし、日本の失われた20年の状況は、GDPの伸び率が低いのは言うまでもない以上に、雇用者報酬の伸び率はさらに低くなっています。その結果国内の消費力がさらに低下し、GDPの伸び率を抑えてしまいました。しかし、その実態に目を向けずにさらに大企業の活動を進めるための規制緩和などの新自由主義に走ってしまいました。

その結果、さらに激しく雇用環境の悪化を招きました。経済運営の方向がまったく逆だったことになります。

企業活動のために非正規雇用の拡大を目指しましたが、その結果労働者の賃金収入が低下し、さらに消費力を落としたわけです。

それらの企業活動応援策というものは、実はアメリカン・グローバリゼーションとも言うべきアメリカの政策の移植であったのですが、それがアメリカからのゴリ押しであることを覆い隠しながら世界標準に合わせるという掛け声のもと推し進めてしまいました。

実はこのようなアメリカ流に反対する国はあちこちに存在します。完全に飲み込まれているのは日本などごく僅かかもしれません。

 

アベノミクスの三本の矢は異次元の金融緩和なる一本目から始まっていますが、これも富める者に新たな利潤の機会を増やしましたが大多数の貧しい者には何一つ利益をもたらさないものでした。二本目三本目も経済再生などには何も役立たないものでした。

 

形だけの財政再建のために消費税増税と言うことも行われましたが、その増税分は社会保障費に使うという言い訳をしていてもその実際はまったく異なるものでした。大企業のために法人税減税を行っておりその穴埋めにされたも同然のものです。

 

法人税減税という方向性もひどいものですが、実際はそれ以上に「輸出戻し税」というものがあり、輸出企業の税負担はさらに抑えられているようです。

また、所得税の累進制も弱められていますが、これもそれ以上に「株式の売買益の分離課税」と言う手段で高額所得者の税負担が低く抑えられているそうです。

 

政治制度の劣化もひどくなっており、小選挙区制の弊害が強く表れています。2009年の衆院選民主党が2900万票をとり政権を獲得しましたが、その後の失政で2013年の参院選では710万票まで減らしました。2200万票が失われたわけです。

しかし、それが自民党に戻ったということはないようです。

2009年の衆院選での自民党得票は1880万票ですが、2013年参院選では1850万票でした。まったく増えていません。

しかし、それで自民党が選挙で圧勝したのは小選挙区制だからこそです。2012年衆院選では自民党は43%の得票で79%の議席を獲得しました。それを不当と考えないのはおかしなことです。

民主党が失った票は実は「みんな」や「維新」、共産党と無効票になってしまいました。「みんな」も「維新」も一時だけの勢いですっかり衰退してしまい、その票の行き場はなくなっています。今後の動きがどうなるか分かりません。

 

現在の経済は自らの利潤を追求するばかりの動きを応援するばかりで、「ブラック企業」を次々と生み出しています。国の経済自体が「ブラック経済国家」と言える状態になっているというのが著者の石川さんの命名です。

 

今後進めるべきは中小企業や農家までが輸出を目指すような政策ではなく、個人消費を増やし地域経済の再生を目指すべきであるということです。まさにその通り、そしてそのための政策を行うことができる政党を樹立し政権につけるべきでしょう。