コロンブスが到達した新大陸はその後の世界に様々な大きな影響を与えました。
征服者は大量の銀などを略奪しヨーロッパに持ち帰り、その経済を通して社会体制にまで激動を引き起こしましたが、世界により大きな影響を与えたのは、実はその時には価値が分からないまま彼らが持ち帰った数々の植物でした。
本書ではそれらの植物の中から、ジャガイモ、ゴム、カカオ、トウガラシ、タバコ、トウモロコシを取り上げ、それにより大きく変わった世界を解説します。
著者は長らく明治製菓で研究に当たられたということで、この植物のうちカカオに大きく関わってこられたということです。
ジャガイモは現在ではヨーロッパの各国の料理としてさまざまなメニューとなっていますが、新大陸発見以前にはなかったわけです。現在の広い普及を見ると驚くほどです。
しかし、このジャガイモの渡来というものが食料面からヨーロッパ社会の発展を成立させたという意味すらあるほどの大きなものだったようです。
ジャガイモのエネルギー収量はムギの4倍に上り、画期的にエネルギー供給量が増加しました。さらに人が食べ残した分で家畜の餌に回せる量も増え、飼育頭数が増やせたために肉食が本格的に普及していきました。それ以前は意外にも十分には肉食に回せる家畜はなかったようです。
ゴムが無ければ車輪というものもほとんど実用にはなっていなかったでしょう。つまり、現在の車社会を支えているのはゴムという植物由来の有機物だったわけです。
これも最初はその意味が分からずに受け入れにくいものだったのですが、偶然にも硫黄と反応させる加硫という技術が発見されその有用性が大きく発展しました。
チョコレートはアステカ帝国では高貴な飲み物であり、王侯しか口にできなかったようです。
飲み方もトウガラシやバニラを加えて泡立てて飲んでいたということです。
それがヨーロッパに伝わり、スペインで砂糖を混ぜて飲みだし広まったそうです。
トウガラシも現在では世界中に広がっていますが、その原種はアメリカだけに限られて分布していたそうです。
トウガラシのない朝鮮、インド料理は考えられないのですが、瞬く間に広がり無くてはならない地位にまで上ってしまいました。
それ以前の食生活を考えると、麦や米、イモなどを塩味だけで食べていたわけです。それはやはりかなり味気ないものだったのでしょう。
そこに、トウガラシを少量加えることで、食欲が増進されるということに気が付いた人たちはそれを積極的に取り入れていったのでしょう。
なお、日本ではトウガラシの取り入れ方というのは独特であり、江戸時代には七味唐辛子として振りかけるだけだったようです。それは食卓での個人の自由の範囲であり、料理人の関知しなかったことです。
他の国ではすべて料理人が味付けをするのに使っていたのに、なぜ日本ではそうならなかったのか、不思議なことです。
ただし、現在では日本でも遅ればせながらその他のハーブも含め味付けとして使うようになりました。それには明治期のカレーの流行とも関わっていたようです。
他にも新大陸由来の植物には、トマト、インゲン豆、パイナップルなどいろいろあります。また、キニーネの取れるキナの木も重要なものです。
ヨーロッパ人による新大陸征服で、新大陸も大変な変化を遂げましたが、旧世界側も大きな影響を受けました。その意味は考え直すほどに大きく感じられます。