爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「21世紀の資本」トマ・ピケティ著

昨年来大きなブームとなったフランスの経済学者トマ・ピケティの「21世紀の資本」です。いつもの図書館にも入っているのは判っていましたがいつも貸出中でようやく空きが出て目にすることができました。
とはいえ、非常に内容の詰まった大冊です。結局すべてを読み通すことはできませんでした。日本でもかなりの出版数になったはずですが、みなさんちゃんと読めたのでしょうか。

さて、本書は4部構成となっており、1部所得と資本、2部資本/所得比率の動学、3部格差の構造、4部21世紀の資本規制となっています。おそらく本書の中心は3部・4部であると思いますが、今回は結局1・2部のみを読んだこととなりました。

本書は18世紀ころからのヨーロッパの経済から長期にわたる動向を述べていますが、資本と労働の分配と言う点が大きな議題となっています。長期的にみて資本と労働の分配の変化と言うものを見ると、かなり不安定であるということが言えるそうです。ほとんどの経済学者はこれは長期的に安定であり労働に3分の2、資本に3分の1が行くというように考えてきていますが、実は19世紀に起こった変化からさらに1914年から1945年までにやってきた大ショックで大きく変動して資本分配率が最低水準になりました。それが1980年代からの資本の建て直しで増大し、現在まで上がり続けているそうです。

経済成長についても現在に近い過去の目を見張るような成長率に気を取られますが、実はそれ以前は成長と言うものがほとんどなく、1700年から2000年までの1人あたりの産出の成長率は人口の増加率とほぼ同じの0.8%だったということです。経済成長率は年3−4%はあるべきだという感覚になっていますが、実はそれはほんの数十年だけの特別な事例だったようです。

18世紀・19世紀の西欧世界というものは非常にゆっくりとした動きだけがあった世界で、お金の価値もほとんど変化しませんでした。したがって財産を持っている富裕者は極めて安定した地位を長い間維持できたのですが、1914年の第1次世界大戦でそれらの価値は消えてしまいました。その後第2次世界大戦にかけてその価値観は崩れ続け、恐ろしいほどのインフレも起こりました。ちなみにインフレ自体もその前の時代にはなかったようです。
そのような時代の変化とともに資本と言うものも変わっていきました。
それ以前はイギリスやフランスでも農地の価値と言うものが非常に高く、農地を多く所有する地主と言うものが一番安定した富裕層だったのですが、第2次世界大戦後の各国では農地の価値は下落してしまいました。
現在ではもっとも重要な土地は市街地となりましたが、その価値は意外なことに18世紀当時の農地価格が国民所得の1/2から1年分にあたるのと同程度で変化はないそうです。

この本の中心はやはり「格差」の部分でしょう。また機会があれば後半も読んでみたいものです。