爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

異常気象?

今夏の日照不足、多雨量は明らかに異常と思える程度であったためか、テレビでは異常気象と気候変動を取り上げた番組が花盛りです。とはいえ、それらはどうも”バラエティ”扱いのようですが。

誰でも持たざるを得ない気象への不安感に付け込んで視聴率を取りたがるテレビ番組製作者の悪辣さは言うまでもないのですが、それに付け込まれないためにも言われるままの情報に安住せず幅広く知識を身に付けることが必要でしょう。
この夏は太平洋高気圧が勢力が弱くさらに寒気(!)が南下したために日本列島上に前線が停滞し寒気と南からの湿気で大気不安定となり大量の降雨となりました。それでも「温暖化」の影響と言いたがる人が多いのにはあきれますが、真実はほどなく判るでしょう。

とはいえ、前提はなんにあるかに関わらず災害に対する防御意識が高まることは良いことなのですが、それが「川の堤防をかさ上げしろ」とか「砂防ダムをたくさん作れ」とか、「川辺川ダムも再度建設を」などと言う方向に行かれたのでは困ります。

異常気象が増加し水害が増えていると言われています。これも単純に信じて良いのでしょうか。
今は報道体制が増強され日本のどこのニュースでも起こって数時間後には全国に映像つきの報道がされるようになりました。洪水や土砂崩れの現場にも(広島市内のような交通至便なところばかりでなく僻地でも)その日のうちにカメラが入り生々しい現場の映像が見られます。そのために最近やけに大災害が増えたと感じさせられているのではないでしょうか。
昔は、といってもほんの数十年前まではそうはいかず、何日もたってからようやく救援隊が入ったというような災害が多かったのではないでしょうか。そのため、大災害も全国的な記憶ではなく地域ごとの限られた記憶になってしまっているように感じます。
私の両親の故郷の長野県南部にも昭和36年に大水害がありました。その被害は大規模なもので死者数も多く、川周辺の光景も水害前後でまったく変わってしまうほどでした。降水量も記録的なものだったようです。しかし、他地域の人でその水害のことを知っている人が何人いるでしょうか。こういった災害は他の地域にも多く起こっていたはずです。決して「最近特に多くなった」とは言えないはずです。

観測史上最大の降水量などというニュースも多く取り上げられています。いかにも報道に携わる人々が好みそうな内容で、なにかあると大見出しにされます。しかし、これらにも観測体制強化ということの影響があるはずです。
最近の降水量の報道で、「国土交通省設置」とか「○○県設置」の雨量計という言葉が頻発しています。昔は気象庁の設置の雨量計しかなく、そのデータしか判らなかったのが各地に色々な機関が設置した雨量計が置かれるようになっています。さらに、「レーダー解析では」という雨量推定もされています。これも昔には無かったはずです。
降水量は特に前線による集中豪雨ではわずかな距離でもまったく異なることは明確です。昔なら捉え切れなかった集中豪雨がデータとして得られるようになった影響が現れているのではないでしょうか。まあ悪いことではないのですが、それを捕らえて大騒ぎするのは間違いでしょう。

第二次大戦終戦直後に来襲したカスリーン台風では利根川の堤防が切れ東京が水没したことがあったそうです。これも終戦後の混乱期で土木工事ができずに堤防改修が遅れたからで、現在は大丈夫と思われているのかもしれませんが、想定以上の降雨というのはいつでも有得る事態ですので、これからも無いとは言えません。
しかし、「河川の防災工事」というものが河川氾濫の発生事情を変えたということは間違いないようです。堤防の増強については延々と続けられていますが、あまりにも上流から下流まですべての流域で行われているために、上流で豪雨があるとあっという間に中下流に大量の水が殺到するようになったそうです。昔であれば小規模の氾濫が起こり田畑を冠水させることによって、時間を稼げていたということもあったようですが、そういった氾濫も許されなくなり、結果的には中下流の危険性が増しているようです。
また、山林の保水性の低下ということも事態を悪化させる要因のようです。また、上流域であっても田畑の住宅化ということがさらに保水性を低下させています。カスリーン台風氾濫の再現は近いのかも知れません。しかし、それは「最近増えた異常気象」の影響などではないことは明らかです。

「異常気象」とは言いますが、それでは異常ではなかった時はいつだったのでしょうか。今生きている人が覚えているわずか数十年のことでしょうか。
数億年前の「全地球凍結」までは戻らないにしても、ここ数十万年までのごく近い歴史を見てもほとんどの時期が氷河期で、その間にわずかに間氷期があったというのが気候の歴史です。ここ1万年程度は比較的温暖で安定した気候に恵まれており、実はその期間をうまく利用して人類は農業を発達させ文明を作り出して来ました。
その1万年の中にも温暖期と寒冷期が繰り返されており、温暖期に増えた人口が寒冷期になると激減するという歴史をたどってきています。
今回の温暖期は長く安定していたために気候変動というものを忘れ去ってしまいました。また技術革新のおかげで食糧生産が飛躍的に増加したために世界総人口が爆発的に増加しています。今後の気候変動により食料生産が減るようならこれまでにない大混乱が起こるのは間違いないでしょう。

その意味でも間違った方向かもしれませんが、今の「異常気象報道ブーム」も無駄ではないかもしれません。