爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「DNAから見た日本人」斎藤成也著

国立遺伝学研究所教授の斎藤さんが遺伝子から見た日本人というもののあれこれを解説されているものです。

日本人の由来というものは昔から様々な方法で研究され推定されてきましたが、最近のDNA情報をもとにした遺伝子解析により相当変わってきたようです。
まず確かなところは、すべての現代人は15万年ほど前の共通の祖先に由来しているということです。せいぜい数千年の歴史時代から考えると15万年というととんでもない古さのようですが、地震や火山爆発などのサイクルから考えるとごく最近とも言えるものです。その程度の時間でこれほどまでに大きな人種差ができてしまったということです。

最近は化石などに残された微量のDNAも分析し、情報を得ることが可能になってきました。そのような情報を集め、遺伝学研究所にはAGE(Ancient Genome Encyclopedia)という古代遺伝情報データベースが作られているそうです。一つ一つの研究成果が集まってまた大きな成果になるのでしょう。

著者はDNA情報だけでなく、言語学と人類学の関連にも興味を持っているそうで、それに関する記述もあります。
日本語はウラルアルタイ語族と言われますが、それがどのような範囲に広がっているものかイメージを持つ人は少ないかもしれません。アルタイ語族には日本語朝鮮語などとともにトルコ語も入り、現在のアジアの両端に分布しているようです。
言語も年月とともに徐々に変化して行き、その変化の仕方というものも一面ではDNAの変異と同じような動向を示していますが、ただし、言語の場合はそのような自然な変化とともに大きな社会的な変動であっという間に根本から変わってしまうことも歴史的には数多い事例があり、注意が必要のようです。たとえばアジアやアメリカの異民族による征服では瞬く間に原住民の言語はなくなってしまいました。

日本語の変動も様々な要因によりますが、方言を詳しく見ると古代からの系譜が残っている可能性もあるのではないかとも記されています。アクセントが無いという方言は全国各地(宮城・茨城・福井・静岡・西九州)にありますが、これも縄文時代の言葉に由来するという説もあるそうです。

あとがきにありますが、日本人というものが成立したのはせいぜい7世紀程度であり、まだ1300年ほどしか経っていません。これから先どうなるかを考えると、国際化が進めば混血もさらに進んで行きしばらく経つと民族というものもどんどん無くなっていくかもしれないということです。
15万年前には一つだった人間が徐々に別れていき外観上は大きな差ができましたが、それがまた一つになるかもという予想は面白いものです。