爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「メディア・バイアス」松永和紀著

科学ライターでネット上でFOOCOM.NETという食品関係のサイトの編集長もされている松永さんが主に食品関係でいかにおかしな報道がメディアによってされているかということを論じたものです。

松永さんは毎日新聞記者でしたがそこを退職後主に食品関係で科学的な見方をするという視点での論述活動を活発にされており、数年前からはネット上でそのような記事を書かれる方を集めてFOOCOM.NETという活動をされています。
以前から様々な著作を参考にさせてもらっています。
この本は2008年の科学ジャーナリスト賞というものも受賞されたということです。

”バイアス”とは”ゆがみ”ということですが、様々なメディアが報道をする際には完全な事実だけの報道ということは有り得ず、かならずそのメディアの主張の入ったものになるのは当然であり、だからこそ特色もでるのですが、松永さんの調べられたとおり、特に食品関係の報道についてはメディア側の科学的な基礎知識の欠如というところに起因して、おかしなものになることがしばしば見られるようです。

例えば、本書に取り上げられている事例ではテレビの健康情報番組があり、そこで流された「白インゲンが健康に良い」という間違った(というか、ともかく不十分な)情報で全国的に食中毒症状を多数の人に起こしてしまったり、納豆や寒天でダイエットなどという番組のせいで品切れを起こしたりと、視聴率が上がればそれで良いといった番組の弊害が大きくなっています。

また食品中の微量成分の作用を過大に評価するために「○○を食べれば良くなる」という”フードファディズム”もメディア主導で蔓延しており、その弊害も大きくなっているようです。

メディアの性質上避けられない問題として、”警鐘報道をしたがる”ということがあります。”世間には知られていないがこのような危険がある”といった報道は記者としてはやってみたいという欲求が必ず起きるもののようです。また、科学者の中にもまともな業績を上げる能力が無くてもそのような問題提起で名前を売りたいという連中がいるために、科学的な基礎知識の無いメディアが簡単に騙されて乗せられるということは頻繁に起こっているようです。
この本出版の少し前に、遺伝子操作した大豆を食べさせたラットの死亡率が上がるという研究発表をしたロシア人科学者が居たそうですが、その実験の実体はお粗末なもので欧米メディアはほとんどそれに乗せられることも無く無視できたのですが、日本のいくつかのメディアは簡単に騙されて報道してしまったということです。こんなものも見分けられないのかと科学者のメディア観にも影響を与えるものだったようです。

この本出版からは5年以上経っていますが、状況はまったく変わっていないようです。昼のテレビのスポンサーは健康食品ばかりのようです。食品以外でも簡単に分かるような子供だましの”科学情報”をそのまま流す番組が目白押しです。メディアバイアスを問題視してもメディアが変わる様子はありません。見る側が気をつけなければいけないというところなんでしょうが、無理でしょうね。