爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「食べるギリシア人」丹下和彦著

ギリシア人といっても現代のギリシア在住の人々ではなく、古代ギリシアの人々の食事の話です。
著者の丹下さんは古典が専門と言うことなので、文献上の記述によります。

ホメロスの書いたトロイア戦争というのは、少なくとも数万人の戦士がトロイを攻め、何年にもわたり戦闘を続けたのですが、当然その間の食糧は膨大なもののはずで、持って行っただけで足りるはずもありません。
しかし、どのようなものを食べたかと言うこともホメロスは記載していません。どうやらそのようなことを一々述べるのは英雄にふさわしくないと考えていたようです。
その中に少しだけ物を口に入れる描写があるようなのですが、それも肉をあぶっただけのもので、実際のトロイア戦争当時はそうだったということで書かれているのかもしれませんが、ホメロスがそれを著述した当時のギリシアの普通の食生活とは相当違っていたようです。

前5世紀頃のギリシア文明の最盛期には特にアテナイなどでは魚食が非常に流行しており、多くの種類の魚介類が様々な形で食べられていたようです。現在ではなんの魚か特定できない記録もあるようで、食べた魚の種類では現在の日本に引けは取らないかもしれません。
しかし、魚は肉よりも高価だったようですし、どうしても鮮度が落ちやすいために魚屋での買い物と言うのは一大事だったようで、できるだけ鮮度の良い魚を安く買うと言うことは大問題だったということが様々の文書に残っているようです。

飲み物ではワインがほとんどだったようですが、ギリシアでは水で割って飲むと言うことが普通に行われており、そのための道具(混酒器)というものが必要不可欠のものだったようです。酒が高価だったからというよりはどうやら飲み物として渇きを癒すのが主だったためのようです。

古代ギリシアの古典劇には喜劇と悲劇とがありますが、食事の場面というものはほとんどが喜劇で悲劇にはほとんど出てこないということです。場面として作りにくかったと言うこともあったようですが、やはり飲み食いの状況と言うのは悲劇的ではないと感じるのが一般的だったのでしょうか。
色々とギリシアの文化を思わせてくれる内容でした。