訳者あとがきという、巻末の文章に、「久々にすごい本に出会った」とあるように、かなりの珍品と言える本です。
本書で初めに取り上げられているのは「ホメロス」、そこから現代の作家のものまで、「存在したのは分かっているが残っていない」本について語っているというものです。
古い時代の本では、歴史的な事件によって破壊されたり、長い時代の経過で失われたたりしたものが多かったのでしょう。
しかし、有名な作家の場合はそれについての記述が他の作品などに残っている場合もあるために、「かつては存在していた」ということが分かるものも数多くあります。
ホメロスが存在していたかとうかも議論されていますが、ほぼ実在は確かなものでしょう。
しかし、その他の史料でホメロスに言及されるときに語られる、「27000行におよぶホメロス作の詩」や「マルギテス」という作品は残っていません。
どこかにそれらの作品が埋もれていて、今後の発掘で出てくる可能性がないわけではありません。
新しい時代の作家などでは、書く書くと言い続けていて死ぬまで書けなかった(ただし、書かれたと言われる原稿が発見されることもある)とか、死に臨んで原稿や日記などはすべて焼けと遺言したとか、逆に遺族がこんなものは取って置けないと焼いてしまったという例などいろいろあるようです。
すでに出版されたものはもう取り返しもつきませんが、原稿のままで未出版のものなどはそういうこともあったのでしょう。
シェイクスピアにも知られている作品以外にも数多くの作品があった可能性が強いようです。
他の作家の作品に加筆した可能性もあるようで、シェイクスピアの文章は思いの外に広く存在しているかもしれません。
リチャード・バートン卿は千一夜物語を紹介したことで知られていますが、その性愛の描写は当時のイギリスでは大問題となりました。
社会の批判を受けていたのですが、その死後に夫人はバートンの遺稿を燃やしてしまったようです。
実は本当は夫人ではなくその他の知人が夫人の死後に燃やしたとも言われているとか。
真実はなかなか明らかにはならないようです。
失われた作品についてだけでなく、作者から他の作品にまで博識が示された、興味深いものでした。