著者は経済学を学びはしたものの、専門の研究者とはならずに経済コラムニストとして活躍されているということです。
だからこそ、言いやすいのでしょうか。これまでの経済の混乱は主流派経済学者の学説のためであると言う批判をしているのが本書です。
それら正統派経済学者の主張には7本の柱があります。
1.「見えざる手」アダム・スミスに由来する市場至上の考え方
2.セイの法則 貯蓄を政府が公共事業に使うのは民間投資を妨げるので、政府財政は小さい方が良いというもの。
3.実証経済学を唱えたフリードマンによる、投機は合理的であり金融投機規制は有害というもの
4.インフレ・ターゲットの設定 金利操作を通じて2%以下のインフレに抑えれば失業率も自然な水準に戻るというもの
ただし、日本でアベノミクスで主張されたインフレ・ターゲットとは方向性が逆
5.「効率的市場仮説」 株価が常に企業価値を正確に反映しているとする。
6.グローバリゼーション ここまで述べた自由放任主義を国際貿易にも当てはめて、関税による国内産業保護や補助金・規制による産業育成を否定。
7.「経済学は科学」 ここでもフリードマン。数量データを出すだけで科学的。
日本の状況とは異なるかもしれませんが、アメリカではこのような経済学が正統派、主流派であり、これらが政策に影響を与えた結果が現在の混乱の元凶であるとしています。
セイの法則というものは、財政赤字恐怖症とも関係しています。オバマ政権も景気刺激策を実施する一方で赤字削減を強硬に進めますが、オバマ自身はセイの法則というものを認識していなかった可能性が大きいそうです。
ミルトン・フリードマンは市場に対する政府の規制は誤りであるとして、それを排除する方向をさまざまな面で主張しました。
公的年金の縮小、最低賃金制度の廃止、所得税の累進課税反対等ですが、これに乗った歴代政権により強者がさらに強くなるアメリカの現状が出来上がったようです。
グローバリゼーションの促進ということにも、経済学者の自由放任主義礼賛の影響があります。
その推進派たちは、モノとサービスの自由な貿易が行われることだけを目指しているのではありません。世界を一つの金融市場にすることも目標としており、さらに労働市場も規制緩和することを求めています。
このような政策を「ワシントン・コンセンサス」と呼ぶそうですが、アメリカでは共和党でも民主党でも双方がこの基準での政策を推進してきました。
しかし、これが世界中に弊害を振りまいていることになります。
そもそも、経済のグローバリゼーションなどは歴史的には存在したことがありません。
19世紀に強く自由貿易を主張していたのはイギリスだけであり、彼らは世界最大の製造業を持っていたためにその売り方を最大限自由にしたかっただけでした。
その後も、自由貿易を主張していくのは最も豊かな国ばかりでした。
自由貿易はすべての人々が恩恵に浴せるわけではありません。大勢の人が職を失う可能性が高いものです。現在でも完全雇用と高給の維持などはまったくできていないものが、さらに悪化すればどうなるでしょうか。
どのような経済学が現在のアメリカ主導の世界経済を引っ張っているのか、そしてそれらがどのような害を作り出しているのか、様々な方面から論証している力作でした。
しかし、巻末に6ページの解説を東京大学の経済学教授の松原隆一郎さんが書いておられますが、それだけ読めば十分概要が分かりました。
まあ、松原さんの解説が優れているのでしょうが、「本文、要らなかった」