ちょうど3年ほど前に読んだ本ですが、また興味を持ち読んでみました。
(というのはウソで、読んだことなどすっかり忘れて図書館で手に取ってしまいなんの疑問もなく読了し、ブログを書こうという段になってなんとなく著者名に覚えがあり、調べてみたら読んだことがあることが判明しました。)
それでも、内容は知識欲を刺激させるものですので、前回書かなかったことを中心にもう一度書いてみます。
肥満になるのは食欲を抑える自制心が足らないからなどと言って、昇進させないとか就職採用しないとかいったことをやる企業もアメリカにはあるとか聞きますが、実はそのような「ダイエットで体重をコントロールできる」という思想には落とし穴があるようです。
遺伝的要素が大きいものであり、なかなか意志で制御できるものではないということです。
次の3つの概念は明白に誤りであるということです。
身体にどれだけ脂肪があるかということを脳は知らずに食べ続ける。
太った人は標準体重の人に比べて明らかに食べすぎている。
食べ物を摂取する行動は意志でコントロールできる。
エネルギー消費量というものは、個人によって大きな差があり、食べても太らないという人は単にそういった遺伝的性質があるからであり、意志が強く食欲をコントロールできているなどという人はごく一部だそうです。
さらに、ダイエットをして体重を減らすことに成功すると、逆にエネルギーの基礎消費量というものも減らす方向に向かい、また太りやすくなる体質になるとか。
リバウンドというものの原因もここにあります。決して、減量行為に疲れてしまったからだけではないようです。
女子運動選手で、特に長距離やバレエダンサー、ボディビルダーなどの体脂肪を落とさなければならないとされている人たちは無月経になることが多いということは知られていることです。
これも無理をするからだという単純な理由と思っていましたが、もっと医学的な関連があります。
実は、体脂肪細胞と言うもの自体、重要なホルモンを分泌する組織なのです。
脂肪組織のホルモン代謝としては、性ステロイドホルモンの代謝、例えば男性ホルモンのアンドロゲンから女性ホルモンのエストロゲンへの転換を行ないます。
したがって、体細胞が少ないと男性ホルモン過多となり月経異常を起こします。
また、エストロゲンの代謝も担うために脂肪組織が少ないとエストロゲンからエストリオールへ転換が減少し、その働きである排卵を促す作用が上手く働かなくなり排卵障害や無月経となるそうです。
体脂肪組織というものがいかに大切なものかということなのでしょう。
アメリカでは様々なダイエット法の間で論争が活発です。
高タンパクが良いとか高炭水化物が良いとか、まったく相反するものもあり、お互いに批判しあう状況でしたが、農務省が2001年に一応の結論を出しました。
それによると、どのダイエット法でもはじめのうちは減量効果が認められるそうです。
しかし、多くのダイエット法ではすぐにリバウンドをしてしまいます。
結局、もっともリバウンドになることの少ないのは「適切な脂質、ある程度多めの複合炭水化物を中心とした食事法」だそうです。
また、ある程度の減量は起きるというダイエット法であっても、高コレステロール症や高血圧などの合併症が改善されないものもあるようで、そこまで総合的に判断する必要がありそうです。
肥満が合併症発症を引き起こし健康を損なうことは間違いないことですが、その対策は難しそうです。
なお、肥満という主題とは直接関係はないかもしれませんが、巻末に健康保険制度についての記述があります。
オバマケアという、保険制度の導入とトランプによるその否定という動きが象徴的ですが、アメリカには国民皆保険などという制度はなく老人・障害者と困窮者向けのものがあっただけでした。
一方、日本はほとんど全ての医療をカバーする国民皆保険制度となっています。
健康保険の範囲内の医療であれば全ての国民はわずかな自己負担で受けられることになります。
しかし、アメリカだけでなく他の国でもこのような皆保険制度というものは無いようで、その医療費の増大が国家財政を圧迫するまでになっています。
特に、肥満由来の生活習慣病治療等の場合、国民皆保険制度というのは大きな矛盾をはらんでおり問題が大きいというのが著者の主張です。
この点は非常に大きな問題であろうと思います。財政だけを考えているような改善案は数々出てきますが医療全体を考えるべきかもしれません。