それでは、健康食品の中でも一応国のお墨付きが出ているという「特定保健用食品」「機能性表示食品」「栄養補助食品」について検証された部分についての紹介です。
まず、「特定保健用食品」トクホですが、これはそれまで野放し状態だった健康食品市場に初めて導入された制度で、1991年にスタートしその後何度かの改定を経て現在に至っています。
現在、1224種の商品が販売されておりそれは消費者庁のウェブサイトで一覧表を閲覧できます。
それに含まれる機能性成分(「関与成分」と言います)も多岐にわたりますが、もっとも多いのは「難消化性デキストリン」です。
これだけで33%を占めます。
他には様々なペプチド、乳酸菌や納豆菌などのバクテリア、キトサンなどが多いものです。
それらの成分が何に効果があるかは同じ成分でも様々で、整腸効果、血糖値、血圧などに言及するものが多いようです。
なお、商品名と関与成分は関係がありません。”青汁””黒酢”という商品名のものが多いのですが、いずれも関与成分を表さず、それは別の成分という事になります。
トクホのCMも以前はかなりの頻度で流れており、そこでは誇大な表現としか見えないものが多かったのですが、2011年に消費者庁が出した指導により自粛されているようです。
しかし、それでも現在もかなり誇大と言わざるをえないCMが出ているのも確かです。
高橋さんは本書中では商品名も具体的に書かないと分からないため明記されています。(販売社名は一応伏せてありますが、誰でもすぐに分かります)
それだけ書いてある内容には自信をお持ちなんでしょう。
この根拠となる実験論文を精査しています。
総被験者80名でダブルブラインド(二重盲検)試験を実施し、3ヶ月飲み続けて体重70kgが1.3kg減り、対照群と比べて有意差があるというものです。
統計的な有意差があるかどうかで効果を判定していますが、その結果は「その程度のものか」というのが正直な感想でしょう。
どちらも難消化性デキストリンを含んでいるので血中中性脂肪の上昇を抑制すると称しています。
しかし、その根拠論文の実験設定を見ると健常成人とは言えないような高中性脂肪値の人を被験者としており、さらに実験時に摂取した食品は1回で41gの脂肪を含むという明白な「高脂肪食」でした。
そこでの脂肪吸収抑制というものは条件が甘すぎると言えそうです。
体脂肪を減らすという効果を称しています。
しかし、その根拠論文では腹部体脂肪面積を測定しておりその減少率はわずかなものです。これを多人数の被験者を用いる実験計画によって有意差を見出すという手法で効果ありとしているわけです。
さらに、腹部脂肪面積は確かに有意差ありで減ったということですが、実は「体重は増えていた」そうです。これは論文中に記載はあるものの、広告には一切触れていないところです。
これも実験計画が極端なようです。
実験参加者はBMIが平均26という肥満者であり、それにコーンスープにさらにバターとラードを加えたという「高脂肪食」を食べさせて食後の中性脂肪上昇が抑えられたという結果を出しています。
もし通常の健常者だったらどうなのか、不明ですし、そもそもそんな極端な「高脂肪食」は食べないほうが良いに決まっています。
どうやら、厳しい審査であるというトクホであってもかなり恣意的な実験計画でデータを出しただけのものと言えそうです。
機能性表示食品については、まず著者が驚いたのは「国民の健康」よりも「国富の拡大」つまり企業を儲けさせることを制度の最初に置かれているということです。
何が目的かも明らかでしょう。
こちらの審査は科学的な臨床試験を行う場合と、自ら行なったのでは無い研究論文の引用でも良いことになっています。
しかし、実施したという臨床試験でもトクホの場合と比べても欠陥だらけの実験ばかりでその科学的な価値は低いものです。
さらに論文引用の場合に至っては、非常に程度の低い論文を用いている例が頻発しており、制度としての妥当性が疑われるものになっています。
終章で著者が強調しているのは「ふつうに食べましょう」ということです。
ヒトは雑食性の動物です。動物も植物も食べなければいけないようにできています。
植物は身体に良く、動物は悪いといった思い込みがありがちですが、タンパク質は動物から摂るほうが効果的であり、さらにビタミンB12とビタミンDは動物性食品からしか摂れません。
野菜もその繊維質を摂取するという意味が大きく、ジュースでは代用できません。
健康食品やサプリメント、青汁などで補助することはできてもそれに大きく依存することはできません。
最近の機能性表示食品の場合の制度の欠陥はすぐに分かりましたが、トクホの科学的実験の審査というところは原論文を見ていなかったので不明でした。
それが非常に小さな効果しかないということが本書の内容ではっきり判った気がします。
「読んでためになった」という気になった本でした。