爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ニッポンの単身赴任」重松清著

作家の重松さんが2003年までに20人の単身赴任の人々の取材を元に単行本として発行されたものに、2008年に文庫本化の際に取材先の人たちの現状まで追加したものです。

 

私もちょうどこの時期に約3年ずつ2回の単身赴任を経験しました。当時は会社にも僅かな単身赴任手当の規定があるだけでほとんど帰宅もできず、非常に辛い思いをしたのですが、この本にも夫婦それぞれの苦しい思いが書かれており、思わず涙が流れてしまいました。

本書に書かれた20人の方々の中にも単身生活を楽しんでいる人も居ますが、多くは厳しく寂しい思いをされている人が多いようです。

私の経験でも周囲の単身赴任者の中にはかえって活き活きとしている人もあり、辛い表情でたまに帰省できる時だけが明るい表情の人もあり、また不倫して離婚する人もありと様々でした。人により事情は様々でしょう。

 

著者は執筆時には40歳ほど、ずっと作家業であったために当然ながら単身赴任の自分の経験はないのですが、父上は転勤を繰り返していたそうです。しかしその頃は単身赴任などという選択はほとんど考えることもなく家族帯同の異動であり、著者も2年に一度の転校という経験をしてしまいました。

 

その後、子供の教育や自宅などの関係で単身赴任をする人が増えてきました。会社の対応も徐々に整ってきたようですが、本書に記された人々でもその待遇は様々のようです。

具体的には、住宅の条件、単身手当があるかどうか、帰省費用の会社負担があるかどうかといったところですが、手当も帰省費用も全く無いというところもあり、月1回の帰省は会社持ちといったところもあるようです。

 

またどのくらいの距離が離れているかというところも大きな点で、家が東京で北海道赴任とか、九州とかだとやはり大変です。大阪・東京間なら費用はかかっても毎週帰宅も可能ですので相当厳しさも違うでしょう。

 

単身赴任する本人もさることながら、残された妻の事情も厳しいものがあるようです。子供も中高生くらいと難しい年頃になり、いろいろと問題を起こすのを一人で対処しなければなりません。たまに帰ってくる夫に相談しても夫も帰るだけで精一杯でそのような問題には関わりたくない思いもあるようで、こじれる場合もありそうです。

 

私も今は退職して家にずっと居られる身分になりました。あの単身赴任生活というものも徐々に記憶が薄れていきますが、久々にこの本を読んで生々しく当時のことが思い出されました。

できればこのような思いをする人が少なくなれば良いのですがやはりこれからも増えるばかりでしょう。

今では夫婦ともに正社員勤務という人も多いのでさらに増えそうです。