ウナギがどんどんと減少していき、「絶滅危惧種」に指定されるとかいった話題も出るようになりました。
それでも、価格高騰しているとはいえ夏の土用の丑の日あたりにはスーパーでは蒲焼が並んでいますが、「本当にこれ食べていいの」と感じる人も多いのではないかと思います。
そういった一般人の疑問に、生態保全の専門家である海部さんができるだけ簡単に応えようという本です。
ただし、「はじめに」にも書かれているように、「ウナギを食べていいのか」という疑問に対する答えはシンプルなものではありません。
本書でも結局、結論は出ていません。
それは、「食べる食べないの決定」は個人の価値観によるものであり誰かが押し付けるものではないからということです。
しかし、その行動を決定するための情報というものは適切で十分なものが必要なのですが、それが今はほとんど得られない状況です。
そういった情報を、この本ではできるだけ分かるようにしたいということです。
まず、「ウナギは絶滅するのかどうか」ということです。
日本の環境省や、国際自然保護連合(IUCN)はニホンウナギを絶滅危惧種であるとしています。
環境省でもIUCNでも、ニホンウナギはシロナガスクジラやトキと同じレベルの2番目に絶滅の危険度の高いカテゴリーにランクされています。
ただし、ニホンウナギの生息数自体がそれほど正確に捕捉されているわけではありません。
農水省のデータは「ウナギの漁獲量」を見ているだけで、そこには様々な要因が含まれるため資源としてのウナギの生息数は現れません。
また、ウナギの資源保護の活動としてかなりの放流が行われていることも問題を複雑にしています。
養殖場で大きくしたウナギを放流することが多いのですが、それが自然環境で産卵できるかは大きな疑問があります。
そして放流ウナギがまた捕獲されるということが多いため、天然ウナギの生息数が全く分からなくなってしまっています。
ウナギの稚魚のシラスの漁や、輸出入をめぐっては違法行為が横行しているという話もあります。
こういった違法行為がウナギの資源減少に関係があるのかないのか。
実は、2016年の自民党の水産部会における水産庁の説明で、「闇流通があっても価格高騰にはつながるが、結局は養殖池に入るから一緒」などと言ったという記録があります。
とんでもない話で、漁獲高もきちんと把握できずに資源管理もできるはずがありません。
どうも水産庁など行政の認識も資源管理という面では不十分な面が多かったようです。
そもそも、シラスウナギの漁獲高を規制するためにその上限を定めているはずなのですが、昨今の漁獲高はその上限量に遠く及んでいません。
つまり、現在のウナギの生息数を守り増やすために定めるべき漁獲上限量が実際には存在量より多く設定され、そんなものは何もしなくても守っている実態となっています。
いかに行政の認識が及んでいないかを示しています。
ウナギでも完全養殖が成功したということです。
それなら、すべてを完全養殖にすれば絶滅の危険性はなくなるのでしょうか。
国立の水産研究・教育機構で、2010年にウナギの完全養殖が成功しました。
しかし、実験室段階の極めて特殊な方法で行なっており、それでは稚魚1匹あたりのコストが数万円かかるそうです。
現在、捕獲した天然シラスの価格はいくら高騰しているといっても1匹数百円程度ですので、コスト的には劇的な方法改善がなければ到底実施できる値段ではないようです。
ウナギの生涯というものは、ニホンウナギの場合は太平洋マリアナ諸島近海の産卵場で生まれ、その稚魚が台湾や韓国、日本へとやってきて川を遡上しそこで成長します。
そして産卵期を迎えると再び海を渡って産卵場へいき産卵して一生を終えます。
現在のウナギの生息数減少をもたらしているのは、川に作られた堰やダムといった構造物がウナギの遡上を阻害しているのが主因と考えられます。
そのようなものの中で、すでに効果の無くなっているものは撤去する必要がありますし、できない場合はウナギ用の魚道を整備していかなければなりません。
それではウナギは食べてはいけないのか。
ウナギの全国での生息数をきちんと調査し、それが増える程度にコントロールできればそれ以上の分を食用にすることが不可能ではありません。
しかし、クロマグロなどは曲がりなりにも生息数を調査しそれによって捕獲数を決めているのに対し、ウナギではそのような調査すらまともには行われていません。
まずそこから始める必要があります。
しかし、消費者としても今やるべきことがあります。
それは、「違法行為の関わったウナギは食べたくない」と考え、表明することです。
ウナギの関わる業界では違法行為が日常問題となっており、一部で考えられているように暴力団などが関わっているということではなく、ちゃんとした業者が一方で違法行為も手を出すという状況もあります。
そのため、現在では「合法的なウナギだけを食べたい」と考えても無理だというのが実態です。
しかし、少しでもその状況を変えるために、「ウナギ取引の違法行為はいけない」という社会的合意を作るよう、消費者としても監視する必要があります。
ところが、一見して合法的な取引を目指すようなポーズだけ取り、実際には違法行為を行う「グリーンウォッシュ」をする会社や組織が多数あるようです。
この見分け方も指摘されています。
1,科学的知見に基づかない取り組み、たとえば石倉カゴの設置やウナギ放流を行ってそれがあたかも資源保護に取り組んでいるかのように宣伝している。
2,シラスウナギのトレーサビリティについて言及しない。
3,「ウナギを守る」ために寄付金を集めている。
こういった会社・組織は避けるべきだということです。
いやはや、ウナギ業界というのはまだまだ大変な状況のようです。
しかしそこからきれいにしていかなければ、ウナギの資源回復などは夢物語なのでしょう。