爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「環境と倫理 自然と人間の共生を求めて」加藤尚武編

1998年に有斐閣アルマというシリーズで出版されていますが、大学程度の教科書を想定して書かれており、著者として様々な大学の先生が当たっています。編者は環境倫理学では中心的な加藤尚武先生と言うことになります。
出版当時は環境ホルモン問題が最高潮だった頃でしょうか。環境汚染が非常に問題視されていたのですが、環境倫理としてはそれだけを扱うわけにも行きません。環境問題を倫理学から見るということはどういうことかというところから始まり、環境倫理学の基本の3つの主張、地球の有限性・世代間倫理・生物保護を解説してから具体事例の検討に入ります。

「公害」と言われていた以前の事例を水俣病を例に取り、その原因やなぜ拡大を防げなかったかという政治・司法システムの問題点を解説されています。
また、化石燃料の枯渇と環境破壊という点では、廃棄の限界と資源の限界という二重の限界が迫っているということ、そしてそれを揺さぶる「成長システム」の問題点にも議論が及び、成長主義はごく限られた範囲内でしか成立しないものであり、成長主義は転換しなければならないと言う原則が強調されています。

未来世代に対する倫理というのは、環境倫理学では大きな主題であると思いますが、本書ではその根拠から、主張していく場合の困難まで解説されていますが、この部分はかなり難解な議論のようでした。教養の学生さんには少し荷が重いものではなかったかと感じます。

生物多様性保護は一般的にも興味を集めやすいところですので、本書を講義に使う場合でも焦点になったのではないかと思いますが、ここも多様性の危機ということは明確であってもそれを守ると言うことがいわゆる「環境ファシズム」に行き着いてしまうという点も述べられています。まあ答えは簡単には見つからないというところでしょうか。

最後に「消費者の自由と責任」というところまで述べられて終わっています。一般教養で学ぶ学生にはここだけでも記憶に止めてもらいたいと言うのが編著者たちの希望でしょう。